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事故から学ぶ 山手線架線事故(2)

中尾政之氏のアプローチについて。

Nakao_1 「検査技術4月号」に掲載された中尾氏の解説文は、「深海無人探査機『かいこう』ビークルの迷子に学ぶ」の表題にあるように、山手線架線事故を主題にしたものではありません。昨年出版された中尾氏の著書「失敗百選」(森北出版)に収録されている「かいこう」の事故について解説をしています。その中で、左に示したように、山手線の架線事故について触れているのです。

これを読んで驚くのは、あまりに現実や現場に無頓着だということです。棒鋼の破断のしかた、破断の直接の原因には全く関心は払われていません。

また、地下鉄で行われている天井の剛体架線が山手線に適用できない理由が、「やたらと支柱が必要となる」としています。もしかしたら、この方は架線の重りが温度差による熱膨張によって架線が垂れ下がるのを防止するためについていることを御存じないのかもしれない、と思ってしまいました。(JRでは温度変化量を60℃と想定している)

Nakaozucまさかなぁ、と注意深く読んでみると、「重りが切れてもワイヤは緩むが垂れ下がることはない」改善策として示されている「定張力機構」の図。わかりにくい図ですが、どう見ても夏場電線が延びて長くなったときに、架線が電車との位置関係でほぼ同等の位置にあるようにする機構とは思えません。.

何故、このような機構が必要なのかという現実を捨象したところでは、現場の事故再発防止としても、また他山の石としても、いかなる教訓化も無意味です。

中尾氏は、東京大学の教授でご自身が書いているとによると、「『失敗学』と命名した文理融合の社会技術を、この5年間研究している」という「失敗学の研究者」とのことです。

中尾氏によると、5年間の研究で分かったこととして「失敗学=失敗のナレッジマネジメント手法の開発」だと、書いています。ナレッジマネジメント手法って、カタカナで書くと分かりにくいけれど要するに「知識の生かし方」ということでしょう。

中尾氏の5年間の研究成果による「ナレッジマネジメント手法」というのが、過去の失敗と現在の自分の状況との類似点に気づくこと、なのだそうです。

「ナレッジマネジメント手法」を具体的に適用すると、「かいこう」の事故も山手線架線事故も、中尾氏自身が経験した「掃除機の電源コードを手元から引っ張ってコンセントを抜いたときの断線」と同じ、と気づいたそうです。そして「引っ張らないようにする」ことが解だというのです。中尾氏の掃除機のコードが切れたところから、「引っ張ることが良くない」といわれてもねぇ。

正直なところ唖然とします。中尾氏はレインボーブリッジは渡れないでしょうし、ビルでエレベーターにも乗れないでしょう。現代社会で構造部材として使われている鉄鋼は「引張」に強く、その特性を生かした「かたち」の恩恵によくしていること、引張の力以外にも破壊につながる力はあること、力を受けながらも壊れないようにすることが技術であること、こんな初歩的なことを東大教授に教えなければならないのでしょうか。

中尾氏に言わせれば、私のは古い考えであって「失敗学の新しい成果を理解できていないだけ」ということかもしれません。でも、私から見れば、中尾氏のアプローチは「答えで問題を解く」やり方そのものです。答えから現実をいくら解釈しても、実践的な教訓にはなりえません。で、その「答え」がお茶の間ワイドショー以下。

実は、中尾氏が他の事故事例について解説しているいくつかの文章にたいして、違和感をかつて感じていました。「ちがう」とは思うのだけれど、何でそうなるのかは分かりませんでした。今回の中尾氏の文章を読んで、はっきりと中尾氏の「失敗学の失敗」を確信しました。これはいかんわ。

参考 バランサーについて

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