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アロハ航空破産

ハワイを中心にボーイング737型機を運行していたアロハ航空が旅客便の運航を停止したようです。こちら。実質倒産です。

アロハ航空というと、1988年4月28日に起きた243便の事故が思い起こされます。およそ20年前です。ハワイ・ヒロ空港を離陸したアロハ航空243便(B737)は7200m上空で客室天井部が吹き飛ぶというアクシデントがおきました。客室乗務員一人が機外に放り出されて犠牲になりましたが、その後マウイ島の空港に緊急着陸をしてクルー・乗客あわせて93名は奇跡の生還を果たしました。

Cimg2206 この話は「奇跡の243便(MIRACLE LANDING)」という映画になっています。私はこのビデオを何回見たかわかりません。先日テープが劣化したので、新しいの(といってもレンタル落ちの中古ですが)を購入しました。

この事故は、航空界にとっては非常に貴重な教訓を残したのです。

ひとつは、「ヒューマンファクター」です。この事故は点検時に見つけられるはずの亀裂を見逃していたことが後に明らかになりました。ここで、見逃した人間を「怠慢」と道徳的に責めることではなく、人間工学的に見逃してしまう条件はなかったのか、という観点から研究が進められ、今では「ヒューマンファクター」テキストができ教育が行われています。

もうひとつは「マルチサイトダメージ」です。航空機は使われている材料の特性からリベットで接合されています。リベットによる接合は、壊れる場合も一本一本いわば縫い目がほどけるように壊れていくと考えられていました。フェイルセーフ構造的になっていると考えられていたのです。しかし、この事故では広い範囲の多数のリベット孔に生じた疲労割れがが一気つながって、天井が吹き飛ぶ事態になっていました。

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あまり知られていませんが、この事故の後経年航空機の点検が行われました。その際、ジャンボジェット旅客機(ボーイング747)の胴体のくびれている部分にマルチサイトダメージ(広い範囲多数の疲労亀裂)が見つかっています。

アロハ航空の事故は、日航ジャンボジェット旅客機が御巣鷹山に墜落した3年後です。歴史にもしもやタラレバはありませんが、この事故が起きなかったら日本で再びジャンボジェットが墜落することも、ありえない話ではなかったのです。日本国内を運航する旅客機は、運航時間に対する離発着回数の最も多い機体で、その分疲労割れの進展も早いのです。

この事故以来、第4世代の旅客機に取り入れられていた「損傷許容設計(damage tolerance design)」思想によるメンテナンスが、それ以前の経年航空機にも取り入れられるようになりました。

損傷許容設計とはどのようなものか、私が勝手に私の師匠と呼んでいる元航空宇宙技術研究所の寺田博之氏の文章を引用しておきます。

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耐損傷設計の概念は歴史的に,寿命安全率を考慮した安全寿命設計,構造の一部が破損しても直ちに全体の機能を損なうことのないように構造の冗長系を備えたフェールセーフ設計,さらにフェールセーフ性を機軸に据えたうえで非破壊検査法の検出限界などから製造時の初期欠陥を規定し,かつある程度の偶発的な荷重負荷を想定した損傷許容設計へと発展してきた。
 損傷許容設計の概念は運用中のき裂状損傷が発生・進展することはやむを得ないこととし,それが最終的に不安定破壊を起こすような寸法(限界き裂寸法)に達する以前に何回かの点検整備を行うことによって確実に捕捉し必要な補修・交換等を行うことが基本となっている。すなわち構造の安全性は,定期整備の過程でき裂状欠陥を非破壊検査技術によって確実に検出することで保たれることとなっている。このため,例えば胴体構造などでは欠陥の見落としによる事故を防ぐために,限界き裂寸法は2ベイき裂(2つのフレーム間隔;約1m)となるように配慮されたり,構造内部に発生したき裂であっても限界寸法に至る前に外部に表面化するように工夫がなされている。

「非破壊検査 」2005 Vol.54  No. 12 巻頭言 より

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損傷許容設計の導入により、非破壊検査は目視検査の精密バージョンという位置づけを超えて航空機の安全運航を支える重要な柱になってきたのです。

アロハ航空の事故は、大きな教訓を残した事故でした。教訓はくみ取り評価する人とシステムがなければ残らないものですが・・・。

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コメント

>ひとつは、「ヒューマンファクター」です。・・・見逃した人間を「怠慢」と道徳的に責めることではなく、人間工学的に見逃してしまう条件はなかったのか、という観点から研究・・・
ということから航空事故ではその方向性が堅持されてきました。ところが、最近の鉄道事故(航空と同じ部門での検討のはず)の答申には、すでに、「ヒューマンファクター」の事項では説明できないからか、乗員・乗員サポート教育のほうに話が変わってきてる気もしますね。少し分析始めてるところです。

投稿: デハボ1000 | 2008年4月 8日 (火) 02時30分

デハボ1000 さん

>乗員・乗員サポート教育のほうに話が変わってきてる

これはNTSBの話ですか?教育のほうに・・・というのは、乗員の意識とか倫理観とかというところに焦点が当たるということなのでしょうか?

投稿: SUBAL | 2008年4月 8日 (火) 19時38分

アマゾンのページに、こんな説明がありました。

「老朽機の機胴が強風で吹き飛ばされた。恐怖の15分間が過ぎてボーイング機は無事に着陸できるか?」

いくらなんでも、機体の一部があんなふうに飛行中に強風で吹き飛ばされるなんてことはないでしょうcoldsweats02

投稿: SUBAL | 2008年4月 8日 (火) 20時54分

飛行機の場合ではないのですが、
この所の事故調の「鉄道関係」の報告は、予測不可能ということを第一義にしたうえで、情報や信号システムの問題以上に、人的問題の訴求が高くなってる気がします。ヒューマンエラーを起こしても大過ないようにし、更に個人の資質を吟味するところに当然問題解決の要諦があるのは事実ですが、福知山線事故・羽越線事故の答申とも、人的要因の不完全と言うところに傾斜が強くなってる気がします。
私の感覚だと、システム的にはもうすこし高くすることは提言するようだが、更に社内の風土だとかと言うところに「ムリムリ結論を求めてる」感じが強いと思っています。(勿論航空機に比べ現在の鉄道事業者に人的管理視点が元々薄いことは事実ですが)技術レベル的視点ももう少し加えてあってしかるべきと思います。

鉄道サイドの議論を航空に持ってくるには過去の歴史からムリもあり、現実には今の航空事故にこのトレンドが持ち込まれることはないと思いますが、かなり先に航空機技術が成熟したときに、一挙に会社組織とか人的素質というところに過度の傾斜した議論が持ち込まれることが無いことを祈っています。

投稿: デハボ1000 | 2008年4月 9日 (水) 01時36分

デハボ1000 さん こんばんは

福知山線の事故に関しては、あのカーブを曲がる危険速度はどくらいであったかの技術的検討と、運転手にそれがどのように伝えられていたか、というきわめて具体的な問題がある、というレポートを読んだことがあります。詳細は私はわかりませんが、抽象的な「企業風土」なるものに逃げる前に、具体的に詰めるべきことがあるのでは、と見ています。規則・法令の遵守というところだけで解決しようとすれば、乗員は運転ロボットになれというのと同じで、実は失うものも大きいはずです。

航空機事故と鉄道などの事故をすべて一緒に議論することはできないでしょう。それでも日本では、次に同じような事故を起こさないようにまずは技術的に(ヒューマンファクターも技術的なアプローチと見ています)トコトン詰めることがどうもおろそかにされて、責任の所在を探すことに重きが置かれているように思います。「悪人」を見つけてつるし上げるか、「風土」「体質」という抽象的なものに責任を押し付けるか。
日本の航空機業界でも、会社組織の風土や人的な素質に問題解決の活路を見出そうとする流れが見え隠れする昨今です。

私は、このアロハ航空の事故やコメット号の事故等、航空機事故が起きてからどのようなアプローチでその後の事故を防ぐ知見を得て行ったかは、もっと広く知られる必要があるだろうと思っています。目からうろこ、というところがたくさんあると思います。

投稿: SUBAL | 2008年4月 9日 (水) 02時32分

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