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材料試験法開発の歴史

 調べものをしていて、面白いのを見つけました。

 「HISTORICAL BACKGROUND AND DEVELOPMENT OF THE CHARPY TEST」というタイトルの論文です。シャルピー衝撃試験に関する論文ですが、紹介したいのはその内容(私の目的はここでしたが)ではなく、材料試験法開発の歴史をまとめた Appendixです。

 そのまま材料力学・破壊力学の歴史を概観できる年表だと思います。

 どこかで調べればこういうものはあるのだろうと思っていましたが、私の手許には在りませんでした。大筋の流れは頭に入っていますが、実際に何年だっけ、どちらが先だっけ、と疑問に思い調べ始めると、結構な時間を費やしていました。また、こういうものを時系列に並べてみると、いろいろなものが頭の中に沸いてきて、なんとなく愉快です(私だけかな?)。

Milestone_in_ut  超音波探傷の項目もいくつか載っています。

 材料試験の歴史年表が、1495年のレオナルドダビンチによるワイヤーの引張試験に始まり、1994年にデジタル超音波探傷器にDGS線図が組み込まれたことで終わっているのも面白いですね。

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Dgs  DGS線図(Distance Gain Size Diagram)は、超音波の距離振幅特性を考慮してきずの大きさを推定するためものです。

Charpy_impact_test  シャルピー衝撃試験は、ハンマーで試験片を叩いて、振り上がるハンマーの高さから吸収エネルギーを求める試験で、メカニズムとしてはきわめてシンプルです。

 鋼の脆性破壊をなくすために大きな役割を果たした試験方法です。特に低温で急に亀裂が進展して真っ二つに割れるような低温脆性を評価するのに有効性を発揮しました。

 破壊力学の分野でも、弾塑性破壊というちょっとややこしい壊れ方を評価する際の試験片にシャルピー衝撃試験片が使われることもあります。

 シャルピー衝撃試験について、小林英男教授(横浜国立大学)は、こちらでこんなことを言っています。

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破壊力学の萌芽はGriffith(1921)というのが一般の認識であるが、正確にはCharpy(1912)であろう、破壊は人間が道具を手にしてからの課題であり、20世紀以前にもそれなりの研究はあった。しかし産業革命(18世紀末~19世紀末)以後、鉄の時代を象徴する重厚長大産業の隆盛期となった19世紀後半から20世紀前半にかけて、鉄鋼造物が潰滅的に壊れるという脆性破壊事故を経験するに至った。これは過去に知見がなかった鋼の延性-脆性遷移の問題である。高強度・高延性のはずの鋼が突如、予期せぬ低強度・低延性で壊れるというミステリーに遭遇した。Charpyは延性-脆性遷移という鋼の持つ特性を明らかにし、これの評価手法としてのシャルピー衝撃試験を開発した。
一般に鋼は、小型試験片の室温引張試験ではよく伸びてから引張強さに達して壊れるが(延性破壊)、大型構造部材では実環境(特に低温)で伸びずに、引張強さに達する以前に瞬時のうちに壊れることがある(脆性破壊)。
脆性破壊は、(1)温度が低く、(2)変形速度が高く、(3)部材寸法の増大や構造不連続(切欠き)の存在による塑性拘束(3軸応力)の程度が強くなるほど、起こり易くなる。材料側から見れば、(1)~(3)の実環境条件のもとで、十分な靭性を持つこと、または延性-脆性遷移温度が十分に低いことが要求される。
シャルピー衝撃試験には、延性-脆性遷移の支配因子が実に巧妙に取り込まれている。塑性拘束が強い切欠き試験片を用い、変形速度を高くするために振上げハンマーの衝撃で負荷し、試験片温度(雰囲気温度ではない)をパラメータとして吸収エネルギーを測定する(図3参照)。
シャルピー衝撃試験の目的は、(1)吸収エネルギー、(2)延性-脆性遷移温度の2つを決定することにある(図4参照)。吸収エネルギーは材料の評価試験としての定性的な意味はあるけれども、応力拡大係数で表示する破壊靱性のように、設計に直接適用できる量ではない。
遷移温度は極めて有用で、機器の最低使用温度を遷移温度以上とすれば、脆性破壊が生じないことが保証できる。シャルピー衝撃試験の塑性拘束と変形速度は、一般の機器で想定されるものよりも、かなり厳しく、遷移温度が上昇する側に設定されている。材料規格や設計規格では、遷移温度ではなく、指定する温度での要求吸収エネルギーが規定されている場合が多い。これは延性破壊によって上部棚となる要求吸収エネルギーを規定しているのであって、指定する温度が遷移温度以上となることを意味する。したがって、遷移温度を規定することと本質的に同じである。
シャルピー衝撃試験は簡便さと有用性から、1世紀の間、適用分野を拡大し続け、今もなお生き長らえている。破壊力学の適用が最も進んでいる原子力の分野ですら、中性子照射脆化による破壊靱性の低下は、シャルピー衝撃試験の結果から予測している。すなわち、破壊力学の温故知新としては、20世紀はシャルピーに始まり、シャルピーで終わったのである。

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最後は破壊力学の温故知新で締めくくっていますが、本日紹介したL.Tóthらの論文も次のような文でを引用して始まっていました。

No man is civilised or mentally adult until he realises that the past, the present, and the future are indivisible.

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コメント

Charpy testing のhistory の論文を紹介いただきありがとうございました。大変参考になりました。1980年代にロシアの車輪製造工場を訪問した時に、マイナス30度に冷却した実物車輪に高い塔から錘を落下させ、破壊靭性試験を行っていたのを思い出しました。

投稿: K.Hirakawa | 2008年8月17日 (日) 14時56分

K.Hirakawa さん こんにちは

ダイナミックな衝撃試験ですね。シベリア鉄道を有するロシアでは、低温下での脆性破壊の防止は優先順位の高い課題なのでしょうね。車輪が脆性破壊したところを見てみたいものです。

投稿: SUBAL | 2008年8月17日 (日) 15時14分

cancerこんにちは。シャルピー衝撃試験は迫力があるので、材料試験の中でもおもしろいのですが、たまに試験片が遠くまで飛び散ることがあるので注意しないといけません。

さて、文献を読ませていただきました。pendulumというのは振り子の意味で、倒立振子と同じ語なのですね。civilise,realise,characteriseなどsでなくzかと思いましたが、そのような表記もあるのでしょうか。behaviourは辞書に()で載っていましたが普通は behaviorだと思います。

投稿: KADOTA | 2008年8月17日 (日) 20時19分

KADOTA さん こんばんは

鉄鋼メーカーでシャルピー衝撃試験を見たときは、試験片のセット・ハンマーの操作も自動で次々に行われていました。もちろん試験片飛散防止のガードもありました。私のところでは、ガードなしで飛ばしていますが・・・・。

スペルに関しては、古い言い方になるかもしれませんが、British Englishではそういう場合もあるようです。Oxfordの現代英英辞典(第7版)にも記載がありました。
筆頭の筆者がハンガリーの人であることが関係しているのかもしれません。
この人、英国かフランスに留学していたのではないのか、勝手に想像してみました。

英語       仏語
civilize    →civiliser
realize    →réaliser
characterize→caractériser


投稿: SUBAL | 2008年8月17日 (日) 22時40分

英国のケンブリッジ大学の教授とウイスキーを飲みながらの話を思い出しました。「アメリカ人はスコッチウイスキーを氷で薄めて飲むように、英国文化や英語ををだめしてしまった。civiliseをcivilizeと書いている。」日本では米語が普通で、wordなども米語に書き直してきますね。
欧州の英語の技術論文は、英語で書き米語では書きません。
お送りした、車輪の脆性破壊の写真は、米国で起こった脱線事故原因となったものです。このときも、裁判によばれ、法廷ではState of the artが問題となりました。脆性破壊のNull ductility temperature 概念を提案した有名な教授が、私の敵側の証人で、緊張したことを思い出します。ご紹介いただいた論文には、彼の名前が引用されていません。米国人だからでしょうか。

投稿: K. Hirakawa | 2008年8月17日 (日) 23時16分

K. Hirakawa さん

学校で教わった英語はBritish Englishだったはずですが、私もcivilize,realize,characterizeが普通になっています。

まぁ、所詮訛りだ、といってしまえばそれまででしょうが、日本語の標準語には長州訛りがたくさん入っているとか、東北訛りの中には昔の都ことばが残っているとか言われますと、何が中心なのかわからなくなります。
イギリス人にとって、英語圏の中心はUKだとというのは譲れない線でしょうね。
スコッチもそうですが、イギリス文化のほとんどは、アングロサクソンではないように思いますが・・・。
「車輪の脆性破壊の写真」貴重なものをありがとうございました。
車輪が割れるなんて事故もあるのですね。

投稿: SUBAL | 2008年8月18日 (月) 01時15分

はじめまして。カナダの専門学校で材料工学を専攻してます。
破壊検査の授業で実際にCharpy testをやりました。
第2次世界大戦時、アメリカのLiberty Shipがtensile testをもとに設計されており、低温で脆性破壊したことで、Charpy testが開発されたと授業で習いました。Liberty Shipが真っ二つに割れた写真を見せて、インストラクターは説明してたので、よく覚えてます。

投稿: ハッチ | 2008年8月18日 (月) 15時08分

ハッチ さん ようこそ

海外からもこのブログを読んでいただけているのですね。ありがとうございます。

材料工学を学んでいるとのこと、面白い情報がありましたら、ぜひ寄せてください。

ただ、ちょっと違うのですよね。Liberty Shipの破壊事故以後シャルピー衝撃試験が開発されたわけではないのです。ここの記事の冒頭で紹介した論文を読んでいただければわかりますが、およそ半世紀ずれています。

Liberty Shipの破壊で、小型の試験片ではよく伸びて延性的に壊れる材料でも、サイズが大きくなると脆性的に破壊することがあることを、200隻もの船が沈没・使用不能になるという壮大な失敗事例として、明らかになりました。
このことを契機に、応力拡大係数・破壊靭性といった概念を中心とする線形破壊力学がアーウィンらが主導して確立して行くことになったのです。
20世紀の破壊力学は、ほぼ前半の50年と後半の50年に色分けすることができます。Charpy testは前半の始まりなのです。
この年表は、少し材料工学を勉強していると、とても面白いですよ。
ASTMの設立が1898年、ドイツではその2年前の1896年、その前年の1895年にレントゲンによるX線の発見、なんていうのも面白いです。
わたしは、この年表を見て、このところ楽しんでいます。ちょっと読んでみてください。

投稿: SUBAL | 2008年8月18日 (月) 18時56分

まだまだ勉強不足でした。僕は歴史はどうも苦手みたいです。Charpy testはLiberty Shipの事件以前に開発されていたのですね。
興味ある記事が多いので、また訪れたいと思います。

投稿: ハッチ | 2008年8月19日 (火) 01時28分

ハッチ さん

私も若いころ歴史は苦手でした。特に世界史の年表暗記みたいな勉強は、反吐が出るほど嫌いでした。今頃になって歴史って面白いなぁ、と感じています。

間違い勘違いはよくあることです。私の独断では、間違い勘違いをすることで学問は進んでゆくと思いますし、完璧で隙のない人は話をしていて面白くないことが多いです。

留学して材料工学を学べるなんて私からすると実にうらやましい。がんばってください。

投稿: SUBAL | 2008年8月19日 (火) 02時20分

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