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ネ-20 タービンの履歴

昨日公開した日本初のジェットエンジンネ-20のタービンに見られた割れについて、原因その他詳細はわかりかねますが、手元にある資料から、このタービンの履歴をたどることで、考える手がかりを探ってみたいと思います。

Ne20_turbine2 タービンとブレードは溶接によって接合されていました。右の図は、石澤和彦著「橘花 日本初のジェットエンジン ネ20の技術的検証」三樹書房(2006) に掲載されているものです。溶接によるひずみを軽減するために、φ1.5mmの銅線を埋め込むかたちで溶接されています。

ネ-20開発の中心人物である永野治氏の「ガスタービンの研究」鳳文書林(1953)には、ブレードの固定方式について

「ネ-20に於いて振動による翼亀裂対策のひとつとして一度振動減衰効果を期待して丸棒挿入方式を用いてみたけれども、充分な比較検討を行う前に溶接式のもので耐震強度充分となったので、生産には手馴れた溶接式を採った。」

と記述されています。

「ガスタービンの研究」には、タービンのブレード後縁から生じるクラックに対する検討対策が詳しく書かれています。

ネ-20はわずか7.5ヶ月間という短い開発期間で1945年(昭和20年)8月7日千葉県木更津で12分間の初飛行に成功したものの、終戦によって大部分が廃棄されて、一部が米軍によって接収されました。

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米国に渡ったネ-20は、1946年3月に米海軍からクライスラー社に払い下げられて、クライスラー社がガスタービンエンジンを開発してゆくための資料として、運転試験にかけられました。

クライスラー社は、運転試験に先立って分解検査を行っていますが、タービンのザイグロ(蛍光浸透)検査も行っています。それによると、タービンにはすでに次の3つの種類のクラックが入っていた、とのことです。

Ne20bimage3 ①.タービンブレード後縁根元付近の横方向のクラック

②タービンブレード溶接部の円周方向のクラック

③タービンブレード同士の接合部の隙間から半径方向内側に伸びるクラック

このうち、①と③が運転試験期間中に成長したことが確認されています。特に①のクラックが、第10回目の運転試験終了後(総運転時間4時間7分)大きくなっているのが確認されて、別に払い下げられていたもう一台のネ-20のタービンと交換されています。

取り外された、タービンは破壊に至るまでのスピンテストに供されています。

新たに取り付けられたタービンは、事前のザイグロ検査ではクラックは確認されませんでした。その後12回延べ7時間39分の試験が行われましたが、この試験後の検査では、クラックは確認されていません。

クライスラー社で二個一にされたネ-20が、現在IHI昭島に保管されているエンジンであると確認されています。

クライスラー社で試験を終わったエンジンは、放出されてジャンクショップにあったものをノースロップ工科大学が手に入れます。ノースロップ工科大学でも、アイドル運転程度の試験を行っているようです。

日本に帰ってきてからは火を入れていませんので、確認されたクラックは、クライスラー社以後日本に帰ってくる(1973年10月)までの間に入ったものだと考えられます。クライスラー社で確認されたクラックの種類のうち、今回の写真で確認できるのは、③のものです。

参考文献

石澤和彦:「橘花 日本初のジェットエンジン ネ20の技術的検証」三樹書房(2006)

永野治:「ガスタービンの研究」鳳文書林(1953)

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コメント

すごい開発がおこなわれたのですね。早速、ご案内の本を読んでみます。ありがとうございました。

投稿: K. Hirakawa | 2009年1月 9日 (金) 21時18分

K. Hirakawa さん

私もネ20の開発の話を知ったときは、正直驚きました。以来ネ20と永野治氏のファンです。

投稿: SUBAL | 2009年1月 9日 (金) 21時58分

こんばんは。手元にある単結晶ブレードを眺めながら読んでいます。
ときに、クラック②はともかく、①③は裏面(シャフト側)にもあるのですか?

投稿: niwatadumi | 2009年1月10日 (土) 01時21分

niwatadumi こんばんは

開発初期のブレードと、今のブレードを比べてみると、今のブレードのかたちの意味が浮かび上がってきます。おう、そういうわけだったのかと・・・。

>①③は裏面(シャフト側)にもあるのですか

よくはわかりません。①は前縁(シャフト側)には生じていないと思います。私の経験では皆後縁側です。
③は、石澤氏の本の写真ではシャフト側に貫通しているように見えます。

投稿: SUBAL | 2009年1月10日 (土) 01時38分

Subalさんの記事にあるように、耐震強度とありますから、熱疲労よりも高温疲労と考えればいいのですね。niwatadumiさんのブログでは単結晶プレートとありますが、戦前から単結晶を製造技術があったのですか。すごいですね。

投稿: K. Hirakawa | 2009年1月10日 (土) 12時45分

K. Hirakawa さん こんにちは


niwatadumiさんの持っている単結晶ブレードは、戦後作られた旅客機のものだと思われます。スーパーアロイとも呼ばれるニッケル基の単結晶のブレードが開発されるのは、戦後です。

永野治氏の「ガスタービンの研究」には、戦時中ニッケルがほとんど使えなくなって材料会社(日本特殊鋼 住友金属 大同特殊鋼)と海軍が連携して研究したことが書いてあります。ネ-20のタービンには、Mn-Cr-V系のイ309を使ったとあります。

「ガスタービンの研究」には、ニッケルをベースにした米英の耐熱合金に比べて、「我々の利用し得た耐熱強度材料の範囲は、はなはだ貧弱であったので必然的に耐久性は小さいものであった」と記されています。

投稿: SUBAL | 2009年1月10日 (土) 15時39分

ご返事を頂きありがとうございました。実は私も住友金属の研究所で耐熱合金の高温疲労とクリープの重畳効果について研究をしたことがあります。数年没頭し、国際学会など論文を数件は書きました。そこで、クリープ変形は主に結晶粒界におこり、塑性変形は粒内が主になります。両者が重畳した時の疲労損傷をどのように定式化するか課題でした。単結晶の耐熱合金で試験片ができれば、もっとクリープ変形の影響が明確にできると考えていたのですが、大きな試験片を作ることができませんでした。それが、ネー20のタービンの話に感動しているときに、単結晶のはなしが出てきたので、信じられなかったことでした。

投稿: K. Hirakawa | 2009年1月10日 (土) 16時33分

K. Hirakawa さん こんばんは

クリープ割れから疲労亀裂になり、破壊するという事例はあるようですね。単結晶になれば、クリープボイドや割れも結晶粒内で起きることになりますね。
私のところでは、単結晶ブレードを作っているメーカーに勤めるものもいるために、単結晶ブレードと一方向性凝固のブレードがサンプルとしてあります。最初見たときに、この複雑な形状のものが単結晶でできているとはとても信じられませんでした。

niwatadumiさんは、たまたま手元にあったブレードを見ながら亀裂の位置を確認していた、ということだと思いますが・・・。

投稿: SUBAL | 2009年1月11日 (日) 00時31分

こんばんは。
K. Hirakawaさんに要らぬ誤解をさせてしまい、申し訳ありません。SUBALさんのおっしゃるとおり、ネ-20のブレードと手元にあったブレードとを見比べて形状やしくみの違いに思いを馳せていただけなのです。ちなみに僕のブログでは2007/10/04に記事(→ http://niwatadumi.at.webry.info/200710/article_4.html )にしており、ANAではなくJALの航空機部品です。翼の長さが50mmほどなので後段の部品でしょう。長いとかっこいいんですけどね。

投稿: niwatadumi | 2009年1月11日 (日) 20時33分

niwatadumiさん、素晴らしいものを持ってられてうらやましい限りです。あなたのブログもあるのですか。いつか訪問させてください。

投稿: K. Hirakawa | 2009年1月11日 (日) 22時09分

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