« 本の表紙デザイン | トップページ | デジタル超音波探傷器の時代 »

「鉄の塊」を飛ばす最先端理論

本の表紙デザインについて前の記事で書きました。最近読んだ本の中でこれはないだろう、という例です。

Hikoukinosikumi この本の筆者は中村寛治さん。全日空の航空機関士だった方です。飛行機に関する雑学本はいくつか出ています。なんだかなという本もありますが、この本の内容はわかりやすくて優れています。

表紙に書かれたキャッチフレーズにある「鉄の塊」は飛行機のことをさすのでしょうが、いくらなんでもそれはないでしょう。

にほんブログ村 科学ブログへブログランキング参加中。アイコンをクリックすると応援になります。よろしく。

私が想像するところでは、筆者の中村さんはこのキャッチフレーズは知らなかったと思います。知っていれば容認はしないでしょう。

たぶん金属と鉄がイコールになっている。相当に雑な認識ですよね。鉄をベースにした合金である鋼は、現在の航空機ではほとんど使われていません。ランディングギヤ(脚)とエンジンを翼に取り付けているパイロン、あえて付け加えればエンジンのベアリングぐらいでしょう。ほとんどはアルミ合金。最近では炭素繊維複合材(CFRP)が機体材料に使われるようになってきています。

「アルミの塊」とかせめて「金属の塊」ぐらいならまだしも「鉄の塊」はいくらかぎ括弧を付けても素人向けであってもありえないと思います。私の心が狭すぎますかね。

かつて、私の勤務先でブリッジコンテストのTV中継がありました。そのときのリハーサルで女性キャスターが「鉄の塊が空を飛ぶ、不思議ですねぇ~」とやっていましたので、お話をしました。そうしたら本番では、「皆さん、飛行機ってアルミでできているって知っていました。こんなに軽くて薄いアルミでできているのに丈夫なんですね。かたちの工夫がたくさんあるそうですよ・・・」と非常に上手くブリッジコンテストの話にもって行っていました。私はさすがにプロだなと思いました。

この本のデザイナーさんは、飛行機について知らないだけでなくて、鉄と金属の区別も付かない程度の方だったと思います。私だったら、こういう方と仕事をする場合は、多少嫌がられても確認行為を求めるでしょう。

初心者向けの本を書くときには、読者だけでなく仕事のパートナーの認識も想定の中に入れておかなければならないようです。

その点日刊工業新聞社の場合は、仕事のパートナーの工学知識レベルは、一般の出版社に比べると相当に高いといえるでしょう。

|

« 本の表紙デザイン | トップページ | デジタル超音波探傷器の時代 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。これはさすがにマズイですね。「面白いほどよくわかる」と言う言葉にもだまされないようにしないといけません。ただ、技術的なことをわかってイラストを描くことが出来る人は本当に限られているようです。そう言う人と人脈があるのはやはり大きな出版社になるのかもしれません。

投稿: KADOTA | 2009年2月12日 (木) 21時31分

KADOTA さん こんばんは

この本は類書に比べて内容は工夫されているのです。私が筆者ならがっくり来ますね。自分の名前を付けて店頭には出して欲しくないです。
「技術」は中学でほんの少しだけ、高校では物理を履修せずに卒業する高校生のほうが多そうですから、イラストレーター(コピーライター?)本人だけを攻められないでしょう。
でも、自分があまりわかっていないという自覚があれば、確認して欲しいです。
中村さんの本の中には、材料に関する項目はないのです。だからともいえるかもしれませんが、裏を返せば原稿を読んでいない。こういうこともあるんですね。
見知らぬ人と呼吸を合わせて仕事をする方法について、考えさせられました。

投稿: SUBAL | 2009年2月12日 (木) 22時03分

「あんな鉄の塊が空を飛ぶはずがない」と昔の人はよく言いました。私が航空工学科に合格した時には、母や叔父からよく言われましたので、懐かしく拝見いたしました。

投稿: K. Hirakawa | 2009年2月12日 (木) 23時41分

K. Hirakawa さん こんばんは

そういえば、年配の人で「アルミ鉄」という表現をする人はいますね。金属=鉄のイメージになっている。
このキャッチコピーを考えた人、理系をほとんど勉強していない若いデザイナーではなくて、年配でベテランの編集者かも知れないと思い始めました。

投稿: SUBAL | 2009年2月13日 (金) 01時42分

「鉄の塊が空を飛ぶなんてありえない」」は昔から人口に膾炙された言葉で、当時の人ももちろん日本の誇るジュラルミンなどはよく知っていました。
今でも航空機事故かあれば、やっぱりそうだろうという人が大勢います。インターネットのブログで今でも数千件はこの言葉で投書されています。航空機が軽金属や合成樹脂でできていて「鉄の塊」でないことは重々承知の話です。空気力学入門書でベルヌーイの法則やナビアストークスの理論を説明するのにに「鉄の塊」がなぜ空を飛ぶのか説明しようと書いても、何らおかしいことではないと私は思います。

、SUBARUさんは「「アルミの塊」とかせめて「金属の塊」ぐらいならまだしも「鉄の塊」はいくらかぎ括弧を付けても素人向けであってもありえないと思います。私の心が狭すぎますかね。」と書いていますが、私はそう思います。

投稿: K. Hirakawa | 2009年2月13日 (金) 10時21分

SUBALさん、こんにちは。
鉄の塊ですか。漫画や通俗本ではないのですから、初心者向けなればむしろ注意して修正すべきと思います。金属といえば鉄、は、日常の言葉としては大丈夫ですけれど。
このキャッチフレーズで、私はむしろ別のことが気になりました。SUBALさんが「この本の内容はわかりやすくて優れています。」とおっしゃるから読んでみたくなりましたが、それではこれは何について書かれた本なのでしょう。「飛行機のしくみ」ですから、飛行機のハードウェアと設計の考え方などに言及されたものでしょうか。興味深いですね。
でもキャッチフレーズは「離陸から着陸まで、鉄の塊を飛ばす最先端理論」です。航空力学について書かれているのでしょうか。それならタイトルは「飛行のしくみ」の筈です。さて困りました。

投稿: Husigidou | 2009年2月13日 (金) 10時32分

K. Hirakawa さん こんばんは

視点の置き方によって見方は違ってくるでしょうね。
私は、飛行機を金属で作ろうとしたときに一般の構造物に使われる鋼ではなくアルミ合金を最適解として選択した、そこが分かれ道になって、構造や安全管理だけではなくていろいろな工夫が積み重ねられて飛行機は今日の姿になっていると考えています。今このときにも、溶接ではなくてリベットガンでリベットを打つ練習をひたすらしている一群の若者が世界中にいるというところにもつながると思うのです。

確かに、インターネット上を検索すると、たくさん出てきますね。

このうちのいくつかを読んでみましたが、私が読んだ中には『「鉄の塊」でないことは重々承知の話』はないように見えました。この問題では、当面「心の狭い頑固おじさん」でいこうと思います。

投稿: SUBAL | 2009年2月13日 (金) 23時53分

Husigidou さん こんばんは

この本には飛行機の構造や材料の話はほとんど出てきません。航空力学と操縦の話がメインです。その意味では、確かに「飛行のしくみ」といったほうが適切なのかもしれませんね。

初心者向きなので、目新しい理論を紹介しているというわけではないのですが、噛み砕き方は上手いなぁと思いました。ただこれも読む人の知識ベースや関心の置き所によって評価は分かれるのかもしれません。わたしの関心は、まったくの素人に技術の面白さを伝える、というところにあります。そういう点から見て、優れていると思いました。

投稿: SUBAL | 2009年2月14日 (土) 00時03分

SUBALさん こんにちは

そうですか。飛行の話なんですね。少しだけやった事のあるフライトシミュレータなど、こんな本を傍に置いてやってみると面白いでしょうか。私は地形の3次元データ化を試みていますが、上下前後左右自在の世界には縁が薄くて、あこがれの中にあります。でも高いところは苦手です。
「まったくの素人に技術の面白さを伝える」、いかにも先生でいらっしゃる。難しいことですね。私にとっても、技術を伝えるためには大きな課題です。
金属と鉄のことを考えながら、私の頭はわき道に逸れました。鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、チタンなど、経験は少ないながら、これまで少しづつ触れる機会がありました。SUBALさんの破壊の話を思い出しながら、それぞれ色々な壊れ方をするのだろうなと考えました。

投稿: Husigidou | 2009年2月14日 (土) 10時42分

Husigidou さん こんばんは

MSのフライトシミュレータではずいぶん遊びましたね。十数年前のことです。「FS5で学ぶ航空学校講習ノート」などというものを買い込んで、計器飛行なんかを学びました。
そんなときにこんなソフトを自分で作って遊んでいました。
http://subal-m45.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_5908.html

このADFの機能が、虫の目の機能に結びついて、夏場に火に飛び込む虫の螺旋飛行軌跡の話に飛んだり、ともかく楽しかったですね。

http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/2607/SPR/Flight.htm


投稿: SUBAL | 2009年2月14日 (土) 20時04分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/222291/44025973

この記事へのトラックバック一覧です: 「鉄の塊」を飛ばす最先端理論:

« 本の表紙デザイン | トップページ | デジタル超音波探傷器の時代 »