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疲労き裂の進展

疲労き裂はどのように成長するのでしょう。製造当初亀裂がなかった部材を5年間使ったところで2mmに亀裂が見つかったとします。この材料では10mmのき裂までは壊れないことがわかっているとします。さてこのまま使うとしたら、どのくらいまでなら大丈夫でしょう。

5年で2mmだから、10mmになるまでは5倍の25年はかかりそう。ギリギリは危なそうだから20年かな。いやーもうちょっと安全を見て10年ぐらいで交換しようよ。

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今回「絵とき 破壊工学 基礎のきそ」という本を書き、来月発刊される予定ですが、この本を書く動機にひとつが、上のような疑問にある程度科学的な根拠を持ってこたえれるようになりたい、したいということでした。

疲労亀裂は、年数や繰り返し数に比例して成長して行くのではありません。5年で2mmだとしても次の5年後に4mmということはないのです。

5 左の図を見てください。これは、疲労亀裂進展の1モデルです。繰り返し応力が大きければ速く亀裂が成長するのは想像の範囲内だとしても、亀裂が成長すればするほど亀裂進展速度が大きくなる。グラフでは、カーブを描いて上昇してゆくようになるのです。ここのイメージは大切だと思うのです。

疲労亀裂進展の法則として現在活用されているのがパリス則です。もちろんパリス側ですべてを説明できるわけではありませんが、この図のように亀裂は加速度的に進展するという知見もパリス側から説明できることなのです。

パリス則は、式としてはシンプルですが、その意味するところを理解するのには少々苦労します。今回の本では、パソコンで動くソフトウエアを用意してインタラクティブ遊ぶことで、パリス則の示しているところを学べるように工夫ををしています。

ソフトウエアは本の刊行に先立ち、公開しています。こちらのページ

パリス則について本を書く過程で、ちょっと苦労をしましたという話は次回に書きます。

「2mmの疲労亀裂が見つかったならば、問答無用、すぐに交換するか修理しなさい。どこまで使えるかなんて危ない議論をしているんじゃない!」と突っ込んでいるあなた。

まぁ、正論かもしれません。ただ、じゃぁ、0.5mmではどうですか?0.1mmでは?現に使われている材料には、検出できるか否かは別にして無数の欠陥が入っていることがわかっています。根拠なしに「うちが使っている材料は無欠陥だ」という人を私は信用しません。「超音波探傷をして無欠陥の報告がある」という人がいたら、超音波探傷の基本から教えなければならないでしょう。

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コメント

はじめまして、管理人様

つい先日、偶然管理人様のブログを見つけまして、時々おじゃましております。
当方、全く分野違いの人間なのですが、昔から少なからずこういったところに興味がありまして、大変勉強になります。
疲労き裂の進展は全く違う分野でも考え方として応用出来そうですね。
具体的にはちょっと思い浮かびませんが、この考え方は分野違いの自分にとって大切だと感じています。
それから、ジェットエンジンの記事、これも大変興味深く拝見させて頂きました。個人的に思うのですが、日本は再び航空大国に成るべきだと思っています。

これからも時々おじゃまさせていただきます。

投稿: PC | 2009年2月 7日 (土) 20時09分

PC さん ようこそ
コメント有難うございます。

>疲労き裂の進展は全く違う分野でも考え方として応用出来そうですね

直接は難しいとしても、私の本には微分方程式の積分を表計算ソフトで行う方法が示されています。微分方程式の積分は式の変形で解析的に行うのが難しい場合がありますが、表計算ソフトを使うと意外なほど簡単に解を求めることができます。わかってしまえばあきれるほど簡単な話なのですが・・・。
この方法は、応用範囲が広いかもしれません。

>日本は再び航空大国に成るべき

私はなるべき、というより「なる」と思いますがね。技術立国として生きていく以上、そうならざるを得ないでしょう。

投稿: SUBAL | 2009年2月 7日 (土) 22時08分

SUBARUさんの問題「製造当初亀裂がなかった部材を5年間使ったところで2mmに亀裂が見つかったとします。この材料では10mmのき裂までは壊れないことがわかっているとします。さてこのまま使うとしたら、どのくらいまでなら大丈夫でしょう。」
答えを教えてください。材質も、部材の形状も、応力(曲げなのか、ねじりなのか、接触応力化なのか)も、亀裂の形状も。亀裂の存在する位置も(表面なのか、表面直下なのか、内部なのか)もわからなくて、考えようもありません。答えを出すには、ものすごい数の仮定が必要であることを皆さんに知っていただくことが皆さんに知っていただく必要があります。しかも計算した結果をたとえばあと2年と出てきたら、実際の判断は後2年使えと言えますか。

投稿: K. Hirakawa | 2009年2月 8日 (日) 08時43分

K. Hirakawa さん おはようございます

K. Hirakawaさんが言われる通り、この設問の設定では具体的な答えは出ないです。そのことは書いておくべきでしたね。
ここで私が言いたかったのは、単純な比例計算では行かないのです、それは危険サイドの判断です、ということだけです。

>計算した結果をたとえばあと2年と出てきたら、実際の判断は後2年使えと言えますか。

人類は、破壊のメカニズムや条件を完全につかんでいるわけではなく、余寿命を完全に予測できるわけでもない、そこに安全係数が出てくるという話になりますね。

投稿: SUBAL | 2009年2月 8日 (日) 09時58分

「計算した結果をたとえばあと2年と出てきたら、実際の判断は後2年使えと言えますか。?」

「人類は、破壊のメカニズムや条件を完全につかんでいるわけではなく、余寿命を完全に予測できるわけでもない、そこに安全係数が出てくるという話になりますね。」

疲労亀裂の進展速度について、安全係数とはどのようなものですか。その基本概念は何ですか。教えてください

投稿: K. Hirakawa | 2009年2月10日 (火) 09時26分

K. Hirakawa さん こんばんは

この領域で、K. Hirakawaさんに私が教えるなどという事柄があろうはずがないことは、自明です。
できの悪い学生のノートを覗いた教授が「ここんとこ、説明できるのか」と質しているということですね。
さあ困ったぞ。上手く答えられるでしょうか。

欠陥の許容評価を行う場合に、計算で求められる結果に対して安全側に余裕を持たせるのは、破壊を完全には予測できないからです。
余裕の持たせ方は、対象物によっていろいろのようです。一般的に言えば次のようになるでしょうか。
検出された欠陥を評価目的と方法にあうように標準化してゆく各ステップで欠陥の形状を危険サイドになるように標準化してゆく。定められた評価方法で算出された余寿命に対して安全係数をかけてゆく方法や、また計算過程で亀裂サイズ・作用応力・破壊靱性値にそれぞれの安全係数をかけてゆく方法がとられます。
その場合の、安全係数のとり方は、その部材もしくは構造物が破壊することによる経済損失・人的損失・環境への影響の大きさを考慮して決められます。また、構造に冗長性が確保されている場合には、安全係数は小さくなります。
安全係数は、破壊がある程度計算によって予測できるとしても、実際には確率論的に取り扱うべき対象であることと、絶対安全はありえないことに踏まえて、破壊の影響度を考慮して決められるものといえるのではないでしょうか。

投稿: SUBAL | 2009年2月11日 (水) 00時45分

安全係数について、非破壊検査の専門家の学会では、いつも亀裂を検出して、さてどうするか考えていて、何か手法があるのではないかと思ったからです。私は非破壊検査は門外漢で、規格程度の知識しかないものですから、質問した次第です。ありがとうございました。
なお、疲労破壊の分野では、Safety factorは安全係数でなく、通常は安全率といいます。しかしこれは応力の大きさに関するもので、亀裂の進展に関するものではありません。

投稿: K. Hirakawa | 2009年2月11日 (水) 09時08分

>非破壊検査の専門家の学会では、いつも亀裂を検出して、さてどうするか考えていて、何か手法があるのではないかと

概してこういう分野への関心は薄いように思います。実際にこの分野を調査研究のテーマにすると、膨大な時間と費用がかかるからなのかもしれません。
私の勉強不足があるかもしれませんが、最近の日本の中では、以前 K. Hirakawaさんからも名前が挙がっていた米山弘志氏のグループが行った報告ぐらいしか記憶にありません。
一連の調査に基づいて、原子力発電所に適用される維持規格では、たとえば(具体的な規定は省略しますが)超音波探傷によって測定された亀裂の深さに対して、4.4mmの下駄を履かせて余寿命計算をするということがなされています。これは非破壊検査結果のバラツキを考慮してのことです。
ただ、PD(Performance Demonstration)という特別の技量認定を受けた人の測定結果は、4.4mmの下駄をはかせずに計算してよいことになっています。
そのような地道な調査と、技量認定制度を作っている人たちはいます。

投稿: SUBAL | 2009年2月11日 (水) 10時25分

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