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トコトンやさしい歯ごたえ

WEB本屋をチェックしていたら、面白いキャッチコピーをを見つけました。

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◆“力をつける秘訣”は, 少し高いハードルを越えること。◆
低いハードルばかりを跳んでいては力につきません。
はじめに断っておきますが,本書はトコトンやさしいわけではありません。

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基本を学ぶ 流体力学」という本です。

日刊工業新聞社の人気シリーズに「トコトンやさしい ○○の本」があります。すでに100冊を超えて、本屋によってはそのコーナーが作られているところもあります。「トコトンやさしい流体力学の本」というのもあります。この本のキャッチコピーは、

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流体力学で使われる様々な手法や、そこで使われる言葉の意味をわかりやすく教える入門書。とっつきにくいと思われている流れ学の内容についてイラストを多用した親しみやすい解説でわかりやすく解説している。

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「基本を学ぶ 流体力学」のキャッチコピーは、日刊工業の「トコトンシリーズ」や、それに象徴される「わかりやすいこと」に主眼を置いた本との区別立てを意図したものと思われます。

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私が書いている本の路線は、後者のキャッチコピーに近いものです。日刊工業新聞社は、学者や学者の卵たちに向けた本ではなく、実際に工業社会を担っている一般の人々の教養を高めることを狙った本をたくさん出しています。

理工系分野で、専門的知見と一般的教養との間に大きな溝ができてしまっているように思います。それゆえ初めて学ぶ人たちのためにガイドとなるような、「わかりやすい」書物が必要になってきているのでしょう。「わかりやすい」というのも程度問題。学習者が何の努力もしないでわかるような書物は、面白みがないし、真にわかったことにはならないでしょう。人間の生存に必要な栄養素とカロリーが計算された飲み込みやすい流動食があったとして、食べ物としては満足いかないのと似ているかもしれません。その意味で、◆“力をつける秘訣”は, 少し高いハードルを越えること。◆と言うのも理解できます。このコピーで言っているのは、説明を説明を受ける人のレベルに合わせるということでなくて、読者を学習者として学習者の努力を促し努力の結果理解できるものにする、ということでしょう。読者の学習能力を想定して、その学習のプロセスを成功に導くような書物を書くということになります。教育行為そのものですね。

言い換えれば、歯ごたえのある書物。トコトン噛み砕いてわかりやすく説明をするのではなくて、読者に噛み砕く行為を促して歯ごたえの後に満足の行く味わいが出るような、そんな書物が書ければ最高でしょう。そういうのが名著なんでしょうね。私が書いているものは、程遠い。まだまだ修行が必要なようです。

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書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。この手の話題はとても興味があります。結局は新しいことを学ぶときには、その分野の体系をつかんで、その中で自分が何を知っていて、何をわかっていないのか、そして、自分はどこレベルまでを学んでおきたいのか、をつかんでおくことが大事なことではないでしょうか。そして、より奧深いところまで理解していると思っている人ほど、どのレベルにも合うような説明ができなければいけないと思うのです。その意味では、トコトンにしろ、絵解きにしろ、シリーズ化されているものはある程度レベルが共通認識できているので執筆しやすいという側面はあるように思います。

投稿: KADOTA | 2009年4月 5日 (日) 23時01分

KADOTA さん こんばんは

本の読み手として、この本は良い・わかりやすい・・などと考えていたときと、私の場合は2冊だけですが、単行本を一人でまとめてみてから、良い本・わかりやすい本とはなんだろうと考えるのでは、やはり違ってくるようです。

KADOTA さんの本を改めてみてみると、「ねじ 基礎のきそ」で、『本書で考えている「基礎のきそ」とは、身の回りにあるねじの頭部の形状やねじ山の形状をきちんと分類できること、金属や樹脂でつくられているねじの材質をきちんと分類できること、ねじ自体がどのようにして作られているのかがわかること』と到達目標を明確にしているところなど、なるほどと思うところが出てきます。

学習というのは、何もかもすっきり判るというのはある意味インチキくさいわけで、わかることの限界=わからないことがわかる、ということでもあるわけですね。

今回の「破壊工学」本は、ある意味体系があるようでない、というところで、今までそれぞれの専門書に分かれて関連性が判りにくくなっていたところを、つなげようとする試みをしています。それは同時に、破壊現象はいろいろな前提条件をつけないとわからにことがたくさんあるということが見えてくるということでもあります。それを初学者向けにやろうとしたところに少々無理があったといえるかもしれません。まぁ、いろいろ言われますが、チャレンジングな仕事をしたという自負はあります。

「わかりやすい」本を書きたい、「わかりやすい」授業をしたい、それが私の役割であるというのは変わりありませんが、「わかりやすい」とは何か、これからも問い続けていかなければならないことなのでしょう。

トコトンや絵ときシリーズは、確かに出版社側の意図が明確で、ある意味腹が据わって書きやすいですよね。トコトンは、項目数や字数にも制限があるようで、それはそれで和歌や短歌の文字数制限のようで、かえって書きやすいのかもしれないと思います。「トコトンやさしい 超音波の本」などトコトンシリーズを何冊も書いている谷腰欣司さんは、このシリーズが大好きなのだと聞きました。

投稿: SUBAL | 2009年4月 6日 (月) 01時04分

こんにちは。
先生の著作に関して途中まで「流し読み」した感想をブログ記事にしましたが,感想といえどおおやけにする責任を感じ,昨日から1,2章をラインマーカー片手に読み直しております。
破壊に関して知っているようで知らない読者たる自分ですから,本来丁寧に読まなければいけなかったかもしれません。少し時間がかかると思いますが後日またレポートいたします。でもいずれにしろ素人意見ですからあまり気にしないでくださいね。

投稿: niwatadumi | 2009年4月 6日 (月) 12時44分

niwatadumi さん こんばんは

辛口の書評というのは、なかなか聞けないもので、参考になります。
賞賛を受けているときよりは、正直落ち着くわけです。肥やしにしてやろうというファイトが沸いてきます。ヘドロの中で身に着けた前向き主義でしょうかね。
ここの記事に書いたあたりのことは、超音波本を書いていたころから考えていたことです。永遠のテーマなのかもしれません。

投稿: SUBAL | 2009年4月 6日 (月) 22時24分

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