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ジェットコースター車軸の検査方法

エキスポランドでの事故から丸2年経ちました。当時、JISに規定された検査を実施していなかったと管理会社の責任を問う報道がなされました。

しかし、該当の日本工業規格(JIS A 1701)には年に1回以上「超音波探傷、磁粉探傷、浸透探傷」のいずれかを実施するようにという規定でしかなく、どの方法が有効なのか、具体的な手順はどうするのかは規定されていないものでした。

産報出版が発行する専門業界紙「検査機器ニュース」の最新号に、CIW検査事業者協議会技術委員会がジェットコースターの車軸(実際にはボルトといったほうが適切ですが)に関して効果的な検査方法を検証した結果を公表した、と報道しています。

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Expociw それによると、実機に使用する車軸2本を含めた3体の試験体の提供を受けて、それに放電加工で人口きずを入れて超音波(UT)・磁粉(MT)・浸透(PT)の3方法について検証したとのことです。報道ではこれ以上の詳しいことは判りません。

その結果「車軸に切られたねじ部の影響を受けてUTでは有効な探傷結果は得られなかったが、所有者が要求する『探傷時に解体しない』を削除すれば、MTが有効」との結論に達したとのことです。UTは有効ではない、分解してMTを実施すべきとの結論です。

実際に検証したということですから、その報告書をぜひ読んでみたいなと思います。ただ、この結論は非破壊検査にある程度の専門知識を持っているものからすれば予想されたもものなのです。

私も、当該の車軸の具体的なかたちや破損箇所がわからないうちは、分解せずに検査するのならまずはUTと思いました。しかし、具体的にボルトのかたちや見つけ出すべき亀裂の位置などが明らかになった時点では、定期的な非破壊検査をするとすれば、分解してMTを優先すべきだと判断しました(こちらの記事)。またUTでは簡単な実験からも、初期に亀裂を見つけるのは無理とみました(こちらの記事)。

CIWの出した結論は重要だと思います。でもここにいたるまでに2年が経過しています。しかもこの結論が現場にある程度の強制力を持って適用されるまでにあと何年かかるのでしょう。この間にも怪しげな検査を経て稼動しているジェットコ-スターが存在しているはずなのです。

この報道では、最後にNDT関係者の声として制度の形骸化についてのコメントを紹介しています。

「報告を受けた自治体側には検査結果の確認をする人員も技術力も不足。安全な制度とはいえない」

非破壊検査は通常「検出すべききずはありませんでした」という報告書になります。つまり、存在するきずという「実」の報告ではなく、ないという「空」の報告の場合がほとんどなのです。『あれば検出できる方法・手順でやりましたがありませんでした』という結論です。検査計画を立てる人、手順書を作る人、検査を実施する人、報告を受ける人それぞれに「見えないものを見通す」知見と技量が必要なのです。

とても3日間の講習で仕立て上げられた「検査員」に出来る仕事でないのは明らかです。また方法手順が確立されていないところで、レベル2以下の技術者がいきなり検査するというのも、非破壊検査の標準的な考え方からは逸脱します。 

P.S. CIW技術委員会のレポートはこちらに公開されています。

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非破壊検査」カテゴリの記事

コメント

>つまり、存在するきずという「実」の報告ではなく、ないという「空」の報告の場合がほとんどなのです。『あれば検出できる方法・手順でやりましたがありませんでした』という結論です。
この問題は ISOの認証業務でも常にかかわる問題ですね。ありましたという指摘は事例紹介ですみますが、ないという証明は追認できないのが普通なのです。数学の証明理論でもそうでしょうが。
追求しても追及しきれない問題なのかもしれないですね。

投稿: デハボ1000 | 2009年5月 7日 (木) 00時51分

デハボ1000さん こんばんは

>ないという証明は追認できないのが普通なのです。

かつて学生の資格試験申請の際に「実務経験がないのならないという証明書類を出してくれ」といわれて、「経験があることは証明できるが、ないことは証明できません。」と断りました。
ただ非破壊検査の仕事の大部分は、ある意味では再現性のある「ない」ことの証明だと思っているのです。もちろん設定した閾値もしくは検出限界以上という限定つきです。
その意味では、現在空港で行われているインフルエンザの検疫の仕事と共通するものがありそうです。成田に到着する乗客の1000人に一人とかの感染者がいる状態になれば、検疫の仕事自体に意味が無くなってくるはずです。
このあたりは、突き詰めると哲学的な議論になりそうです。

投稿: SUBAL | 2009年5月 7日 (木) 02時03分

初めてコメント致します。
いつも仕事に疲れた時や落ち込んだ時訪問し、やる気を戴いております。

>その報告書をぜひ読んでみたいなと思います。
すでにご存じかもしれませんか゛、
(社)日本溶接協会発行のRUMPSというニュース誌の
Vol. 23 No.2 Spring,2009に詳細報告が記載されています。


投稿: 天使 | 2009年5月11日 (月) 20時37分

天使さん こんばんは

こちらにも来て頂いていましたか。
CIWの情報有難うございました。
先ほど確認しました。
ちゃんと読んで、別の記事にしたいと思います。

投稿: SUBAL | 2009年5月12日 (火) 00時11分

お久しぶりです。
RUMPSの記事を見ている限りでは、実験が正しくないのではという疑問があります。
それは、き裂が発生するのは常識的にはネジ底に発生すると思うのですが。(RUMPSの記事ではネジを切っていない部分に人工的なきずを入れている)
サイズは異なりますが同じようなネジ部のき裂検出でネジ底に人工的なノッチを入れると1mm程度のノッチは垂直探傷法で検出できることを確認しています。(ただし、5MHzよりかなり高い周波数の水浸法の探触子を流用して測定しました。<---5MHzの一般的な垂直探触子では人工的なノッチが2mm程度にならないと十分なSN比で検出できなかったため)
MTは適用しませんでしたが、MTを適用するとネジ底のき裂の判別は困難ではないですか?(かなり、大きくなれば問題なく検出できますが)
ネジを切っていない部分ではその部分に偶然に介在物があったり、取合いの部品が当たったりしない限りき裂が発生することはないと思うのですが。
私の考えが間違っているのでしょうか?

投稿: Ikegaya | 2009年5月12日 (火) 16時35分

Ikegaya さん こんばんは

RUMPSの記事をみて、実は私も驚くというか疑問がいくつもわいてきたのです。正直面白い有益なレポートですね、とはとてもコメントできない。それで改めて別記事にしようと思ったのです。Ikegaya さんのコメントもありましたので、現時点で考えていることを書いておきましょう。

一番大きいのが、Ikegaya さんも指摘している人工きずの位置です。どうして実際に疲労亀裂が生じたねじの谷ではないのでしょう。5MHzであの位置なら、距離分解能などという難しい話を持ち出すまでもなく、超音波探傷を知っている人ならやる前から検出できないだろうということが予想つく位置でしょう。

次に、どうしてコッターピンを通す穴がついていないのでしょう。私は、エキスポランドの事故になった軸のねじ部にあるコッターピンの穴が妨害となって超音波では探傷不能だろうと考えています。だから結論としては、CIWの委員会と一緒なのです。

ねじの谷部の磁粉探傷は非常に難しいです。磁化電流値が少し高ければ谷と山の部分に漏洩磁束が発生して形状に起因する擬似模様が出ます。また、転造ねじの場合には一番いやらしいところに特有の磁粉模様が出ます。
材質や形状に見合った微妙な磁化電流値の設定が必要です。
それなのに、なぜ極間法なのでしょう。私はMTをやるとしたらコイル法だと思います。ハンドマグナを使うとしたら、少なくとも専用冶具を作る必要があると思います。写真のやり方はいかにも乱暴。あのヨークの当て方だと反磁界がたくさん生じて、特に端部の感度は落ちているはずです。

非破壊検査の専門家が入っているのですよね。もう少し調査の背景があるのかもしれませんが、あのレポートは疑問が多いです。

投稿: SUBAL | 2009年5月12日 (火) 18時54分

こんばんは。
非破壊試験総合管理技術者が集合したのですね。今後の展開に期待しています。

投稿: niwatadumi | 2009年5月12日 (火) 23時05分

RUMPSの記事の件ではSUBALさんと同じように考えています。
経験的にはあまりネジを対象として非破壊試験を行うことが少ないので以下の考え方の正しさを確認できませんが、ネジの非破壊試験に関しては以下のように考えています。
<き裂と破断に関して>
(1)発生する損傷はき裂でネジ底に発生する。
(2)発生するき裂は深さ方向に成長するとともに円周方向にある程度は大きくなる。
(3)実際に部品が破断するのは、時間をかけてき裂が成長し、かなり大きくなってから。(<---そのため非破壊試験で検出することができる)
<UT>
き裂がコッターピンの陰に完全に隠れるのはき裂の初期で、ある程度成長すると陰に隠れない。
また、き裂が最初に発生する箇所がコッターピンの陰とは限らないので検出できる確率はそれほど低くないのでは?(<---実際のき裂を用いて確認してみたいのですが)
<MT>
ジェットコースターの点検を行う場所に関してはそれほど広くなく、整備のコスト等も考えるコイル法の適用は難しい気がします。(<---これは実際にコースターの点検を行ったことがないので勝手に想像しているだけですが)
ただ、極間法を適用するなら指摘のように専用治具をつくる必要があると思います。
いずれにしても機械的な加工、放電加工等の人工きずだけでは検出能の確認には不十分で、実際の疲労き裂で確認を行う必要がある。
<PT>
ある程度き裂が成長すると洗浄しても(あるいは除去しても)、浸透液がわき出してくるので、健全なネジ底と判別できるのでは。
ただし、油分を除去する前処理とき裂内部のさびの有無によってかなり検出能が変化すると思います。
<他の検出法>
最近あまり使われませんが、き裂深度計(交流電流が表層部のみを流れることを利用したき裂深さ測定装置)は使えませかね。ただし、センサ部は専用のものを試作する必要がありますが。

投稿: Ikegaya | 2009年5月12日 (火) 23時53分

niwatadumi さん こんばんは

CIWの技術委員会という権威ある機関のレポートですからね。発言には慎重にならざるを得ないですが、疑問や見解を述べていくことも必要だろうと思います。

投稿: SUBAL | 2009年5月13日 (水) 23時20分

Ikegaya さん こんばんは

ある程度非破壊検査技術を学んだ者、経験があるものがみて納得がいく検証が必要だと思います。
私も自分に許される環境の範囲で試してみていますが、所詮限界はあります。

コッターピンの穴の件は、試験体のサイズにもよるでしょうが、穴からの多重エコーが妨害になり初期の疲労亀裂を見つけるのは難しいと思います。直径の半分ほども進展すれば、超音波で検出できないことはないとは思いますが、その時点では余寿命はきわめて短くなっています。ではどの時点なら検出可能なのか、その点が検証されているのかと期待したのですが、違っていました。
RUMPSのレポートは、検証方法には疑問がありますが、PT・MT・UTのいずれかでやれという規定では問題がある、MTをやるにせよ手順書が必要である、という点を公式に指摘した点では意義があると思います。
ただ、発注者が受注者に手順書を要求する必要があるといっていますが、手順書を作成するには期間と費用が必要ですね。

投稿: SUBAL | 2009年5月13日 (水) 23時43分

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