« 天王洲ふれあい橋と渡良瀬橋(2) | トップページ | 蛍光を発するアンモナイトの化石 »

天王洲ふれあい橋と渡良瀬橋(3)

天王洲ふれあい橋は、20世紀の後半に作られた珍しいピントラス橋です。ピントラストは、部材をピンで接合された構造のトラス橋です。

Bridge7 KADOTAさんから提供していただいた写真にピンによる接合部が写っています。ピンで部材を接合することはトラスにとっては本質的な意味を持っています。回転自在になるように部材をつなげることによって部材に曲げの力がかからないようになります。部材には引張りか圧縮の力しかかからないようになり、少ない部材を使ったシンプルで丈夫な構造になります。

19世紀半ばにトラス橋が考案されて、1870年代から盛んにトラス橋が建造されるようになりました。当初はトラスの理論に従ってピン接合の橋として作られていきました。しかし、次第に接合部はガゼットプレートという鉄板に何本かのボルトでつなぐ剛接合の橋が多くなり、1930年あたりから以降はピン接合の橋はほとんど作られなくなりました。なぜかというと・・・

にほんブログ村 科学ブログへアイコンをクリックすると、ブログランキングの応援になります。

ピン接合が構造的に複雑であるという理由以外に、力学的にもあえてピン接合にする意味がないことが分かってきたのです。それは、鋼のヤング率(縦弾性係数)が、鋼の降伏点や強度と比べて桁違い(3桁)に大きいことに起因します。降伏点(そこを超えると塑性変形が始まり通常破損と考える応力)が400MPaの鋼材を想定します。鋼材のヤング率は、鋼種にかかわらずおよそで言えば210GPaです。この場合、1mの部材が破損にいたる前のギリギリの力で引張られたとしてその伸び量は2mm弱です。5mの部材でようやく1cm程度なのです。通常使用中に部材に発生する応力は降伏点よりずっと下ですから、あえてピン接合にしなくても、許容される応力の範囲では変形量はきわめて小さくなります。剛接合にしても曲げモーメントは無視できるほど小さいものになるのです。トラス構造は、原理的にはピン接合ですが、現実的には剛接合で支障がないという、少々狐につままれたような話になるのです。

そんな面倒な話はおいとくとして、ピン接合のトラス橋を見ると、荷重にたいして柔軟に生き物のように対応しているように見えますし、なんとなくメカニカルでもありますし、私は好きなのです。

20世紀の終わりになって、あえてピン接合のトラス橋にした天王洲ふれあい橋は、ピントラスを好む心情に普遍性があるとデザイナーが読んだのか、単なる遊び心なのか、いずれにせよ面白い橋ではあります。

Watarase 松浦亜矢がカバーしている森高千里の「渡良瀬橋」。本当の橋は、ワーレントラスで剛接合になっています。トラスの鉄橋としては、ワーレントラスが一番多いのではないでしょうか。

この橋は栃木県足利市を流れる渡良瀬川にかかっていますが、この橋よりさらに40km上流に渡良瀬第二橋梁という鉄橋があって、これがピン接合のプラットトラスなのです。トラス橋豊富なデータと写真が掲載されているこちらのページ

Watarase2 栃木県日光市足尾町。足尾銅山のために作られた橋のようですね。1911年とありますから、明治最後の年です。

もうひとつ、足利市の渡良瀬橋から下流におよそ10km、群馬県館林市に渡良瀬川橋梁という名の下路曲弦プラットトラスの橋があるようです。こちら。1914年大正3年竣工とあります。へー、古いほうが「第二」となっているんだ?

渡良瀬川という、郷愁を感じるネーミングの川に架かる橋。森高千里が足利工業大学の学園祭の帰りに夕焼けの中にある橋を見てインスピレーションが沸き作った歌が「渡良瀬橋」なのだそうです。

この曲、このブログにコメントを寄せてくれるデハボ1000さんのブログで最初に聞いたときから、なんとなく耳についてしまったのです。その歌を、天王洲ふれあい橋に関連して、また聴いてしまい(?)、ついついこんな長い記事になってしまいました。最後に森高千里の「渡良瀬橋」を・・・。

にほんブログ村 科学ブログへアイコンをクリックすると、ブログランキングの応援になります。(長くなったのでここにも)

|

« 天王洲ふれあい橋と渡良瀬橋(2) | トップページ | 蛍光を発するアンモナイトの化石 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。先日、私のブログでとりあげたときに質問があったのですが、ピン結合というのはねじ部がないリベットのようなものと考えてよいのでしょうか。それとも、どちらもあって、先日紹介した横浜の橋は古い時代のねじ部ありのものだったのでしょうか。
http://isogonomiyama.hama1.jp/e39867.html

投稿: KADOTA | 2009年6月11日 (木) 06時23分

おはようございます。
天王洲ふれあい橋のかたちに引かれて、ついつい読んでしまいます。ふんふん、アーチ橋なのに四角形。アーチでつり橋、おやおや。懸垂曲線、なるほど・・・。ピントラス、へ~!。地震が起きたら揺れ方が違うかな。
片や渡良瀬川。その近くで暮らす私には見逃せません。とはいえ、鉄道橋はなかなか縁がありません。思い浮かぶのは、毎朝下をくぐる両毛線の渡良瀬鉄橋か、上毛電鉄の鉄橋くらいです。中学の頃には、多摩川で開通間もない新幹線や、鶴見操車場でたくさん見かけたD51など撮りまくったんですが。
天王洲ふれあい橋。見たいけれどちょっと遠い。渡良瀬第二橋梁。ここならいずれ機会があるでしょう。先週も近くを通過しました。足利にも。ここから車で30分くらいでしょうか。
あれも見たい、これも見たい。宿題をたくさんいただきました。

投稿: Husigidou | 2009年6月11日 (木) 09時18分

KADOTA さん こんばんは

トラス構造にとってピン接合の部分は回転軸があればよいので、それがボルトであろうがリベットであろうが良いのだと思います。ただ、組み立てやすさやメンテナンスのしやすさから言ってボルトのほうが適しているような気がするのですが・・・。
浦舟水道橋もボルトになっているように見えますし、私が知っているピントラス橋の接合部はボルトになっています。100mm近い径の軸をリベットとして打つことができるのでしょうか。
明治初期といっても19世紀の後半ですからね。そのあたりの歴史は詳しくはありませんが、大きなねじを作る技術は英国などにはとっくにあったのではないでしょうか。
浦舟水道橋の銘盤に「日本最古のピントラス」と書いてあるのですね。日本トラス橋史というのも産業技術史の一分野としてまとめるのも面白いかもしれません。
今度見るときには、接合部とねじという視点で見るのも一興かなと思います。

投稿: SUBAL | 2009年6月11日 (木) 21時00分

Husigidouさん こんばんは

楽しんでいただけたようで、良かったです。
私も天王洲ふれあい橋の形から渡良瀬橋にいたり、日本のトラス橋の歴史まで話が展開してゆき、とても面白いです。

渡良瀬橋梁は足尾銅鉱山との関係で架けられた古いトラス橋なのでしょう。鉄道・鉄橋は鉱山開発と関連が深いようで、北海道にも夕張の山奥にトラス橋が残っています。

車で山道を走ってトラス橋を見つけると、背の高い草をかき分けて見えやすいところまで入ってゆく怪しいおじさん。Husigidouさんも同類でしょうか。

私にとっては足尾町は多分生涯行くことはないでしょうが、首都圏なら見に行く機会を作れそうです。

投稿: SUBAL | 2009年6月11日 (木) 21時11分

SUBALさん、こんいちは。
天王洲ふれあい橋、名前は陳腐ですけれど、鉄道橋や大きな道路橋とちがって、自分でユッサユッサできそうで良いです。パシパシたたけそうです。いずれ・・・。

足尾って行き止まりのイメージがありますが、日光から関東へ抜ける道として、観光シーズンには案外混みます。特に関東平野の出口、大間々(おおまま)町は混雑して、町の人が生活に困るほどです。近年、高速道路の開通で、交通量はだいぶ少なくなりましたが。日光へいらっしゃる機会などありましたら、足尾、群馬へもぜひ。

私の周りは怪しいおじさんばかりです。遊具を見ると引き寄せられるオジサン、地すべりのヤジウマおじさん、鳥に夢中のおじさん、まだまだ色々です。いずれにしても見る目が養われないと楽しめませんから、傍目に見るとやはり「あやしい」のですね。自分のことは、はい、棚上げです。

投稿: Husigidou | 2009年6月12日 (金) 10時37分

Husigidou さん こんばんは

天王洲ふれあい橋のネーミング、私も野暮ったいなと思いました。橋のデザインの面白さとは対照的です。

そうか、日光への途中なのですね。日光にある左甚五郎作という木彫は見てみたいとは思っているのですがね・・。

>私の周りは怪しいおじさんばかりです。

その一人はあのおじさんですね。
誰にどうみられいわれようとも気にせず楽しんじゃっている人たちですね。

投稿: SUBAL | 2009年6月12日 (金) 20時06分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/222291/45293368

この記事へのトラックバック一覧です: 天王洲ふれあい橋と渡良瀬橋(3):

« 天王洲ふれあい橋と渡良瀬橋(2) | トップページ | 蛍光を発するアンモナイトの化石 »