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「ネ-20」に関する古いノート(その4)

Iノートを書いた石原宏氏にレクチャーをしたのは「ネ-20改」の設計にかかわった東大航空研究所のメンバーかそれに近い人物であろう推測しました。おそらくそのレクチャーは戦後石原宏が進学した東大のキャンパスにおいてではなく、石原氏の自宅ではなかったかと考えています。
石原家と東大航空研究所のメンバーとの間に接点があった証拠はありません。ですがありそうかなと考える根拠はあるのです。

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それは、石原宏氏の父にあたる石原勵(いしはら・つとむ、1897-1969)氏の存在です。この方、浦賀船渠や大日本兵器の役員をされて戦後は日本工作機械工業会の第2代会長を務めた方のようです。私が注目したのはこの石原勵氏が、戦時における量産体制構築の必要性を説く論客であったという事実です。1942年11月23日付けの日本産業経済新聞に掲載された座談会の記事が神戸大学のHPに収録されています。この座談会の出席者(技術院総裁 井上匡四郎氏・大日本兵器常務 石原励氏・東京工業大学学長 八木秀次氏・逓信省工務局長 松前重義氏・東京電気社長 清水与七郎氏 )のうち2名は私でも名前を知っている方です。かの有名な八木アンテナの八木氏と東海大学の創始者ですね。この中で、石原勵氏は戦時における量産技術の確立と制度的な保障を主張しています。1934年の機械學會誌 37(207)にはこんな論文を寄稿しています。生産技術に関する専門家として名をはせていた人物と考えられます。
他方、ネ-20改の設計を海軍から依頼された東大航空研究所は、性能の向上だけではなく量産に適した設計にするようにとの要請を受けています。量産に適した設計にするためには、どのような工作機械があるのか、精度はどの程度確保できるのか、技能者はそろっているのか、工数はどのくらいかかるのか、など学者の先生には多分不得意な領域の情報が必要になります。当時、エンジンの量産には大きな艦船を建造することが難しくなってきた造船工場の転用が図られています。東大航空研究所のメンバーがその筋の専門家へのコンタクトを持ったであろう事は、想像に難くありません。それが石原勵氏であってもおかしくはないと思うのです。
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終戦後数ヶ月経ったある日、戦時中に知り合っていた石原勵氏をたずねて東京都内の石原邸に東大航空研究所のメンバーがやってきます。用件は何であったのかはわかりません。そこで、未完に終わった新型エンジン開発の話になります。17歳の少年は、話を聴くことを許されていました。話を聞いているうちにその内容の迫力に引き込まれるとともにとてもメモをとらずに理解できるものではないことに気がつきます。そこで、手近に有った歌舞伎のチラシの裏にメモを始めた。Iノートはそのようなものではないか、私の頭の中に浮かんだ情景です。
その少年はやがて東大工学部に進学して、三井物産に入り産業機械畑を歩んで、三井物産工作機械の社長を勤めた後、本社の産業機械部長を勤めたそうです。

この話をここまで書いたのは、Iノートを見たときに学習ノートのようもありますが、そこにある種の熱を感じたからなのです。
書いたのは敗戦を17歳で迎えた少年でした。17歳といえば、平和な時代でもおそらくたいていの人にとって思い悩み揺れ動くときでしょう。
他方新型エンジン開発に自信と誇りを持ちながら継続する場と手段をなくした技術者もしくは研究者がいました。その両者が出会ってアークの火花が飛んだ、そんなシーンを想像したのです。
敗戦後の日本というと、私はまだ誕生していないのですが、すべての人が打ちひしがれているようなイメージを持ちがちです。どっこい必ずしもそうとばかりはいえないのではないか。すべてをなくしてしまったからこそ、具体的な展望など何一つ見えないからこそ沸き起こる展望なり希望なりといったものがあるような気がするのです。茫然自失の中で見上げる空というようなもの。
もしかしたら、戦後の廃墟の中で日本のあちこちで起きていたと思える、戦前の技術とそれを支えた情熱が受け継がれて方向を変えて流れ出す瞬間の火花、その痕跡のひとつがこのIノートではないのか。
まったくピントが外れているのかもしれません。ネ-20の開発物語が好きなおじさんの妄想かもしれません。でも想像するって楽しいじゃぁありませんか。
最後までお付き合いいただき有難うございました。また資料と情報を提供いただき、ご家族に関する仮定たくさん入った勝手な話を鷹揚に受け入れてくださった山鳩さんに感謝申し上げます。

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