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浸透液に洗浄剤をかけてみる

毛細管現象を使う非破壊試験方法に浸透探傷試験があります。サインペンのキャップをし忘れて胸ポケットにでも入れてしまうと、繊維の間にインクがしみこんで行きますが、これが毛細管現象です。原理的には隙間が狭いほど重力に逆らってでもしみこんでいきますから、幅の狭い亀裂の検出に利用するには都合がよいのです。ただ幅が狭くなれば、しみこんでいく際の抵抗が問題になってきます。粘度です。
Cimg3407 浸透液に洗浄剤がかかったら粘度がどうなるか、簡単な実験を行ってみました。
およそ6度傾けたステンレスの平板に水洗性染色浸透液と溶剤除去性浸透液を刷毛で塗りました。これに洗浄剤をかけてみました。

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Cimg3410 かけたのは溶剤(主な成分は無臭ガソリン)の洗浄剤と水型エアゾール洗浄剤(主成分は水)です。およそ400mmの距離からスプレーしました。
Cimg3408 最初に溶剤の洗浄剤。両方の浸透液とも最初まだらもようになり、その後下方に向けて流れ始めました。粘度を測ったわけでは有りませんが、粘度が上昇したとはいえないでしょう。
Cimg3409 次に水型エアゾール洗浄剤をかけてみました。水洗性浸透液のほうは、浸透液が水に分散して流れています。溶剤の洗浄剤のほうも浸透液が溶剤に分散して流れていますが、刷毛で塗ったところには流れずに残っている部分があります。
浸透液は両方とも主成分は石油(第二石油類)で、染料や溶剤が入っています。水洗性浸透液には乳化剤が入っていますので、水が有ると乳化剤の中の界面活性剤の働きで、水と油が結びついて分散するようになります。原理としては、油ものを洗剤をつけて洗うことと同じです。
水型エアゾール洗浄剤を使う水洗性浸透探傷試験は、従来洗浄設備や水処理設備を必要とした水洗性浸透探傷試験を大規模な設備なしにスプレー缶で実施できるようにした優れものです。よく実施されるカラーチェック(溶剤除去性染色浸透探傷試験)によく似た手順で実施できる携帯性の良い方法です。
教科書的には「幅の狭いきずや深さの浅いきずの検出には向かない」となっていますが、実際に実験的に確かめると、溶剤除去性染色浸透探傷試験も除去処理の 仕方で幅の狭いきずや深さの浅いきずが不検出になることがあって、方法自体に大きな差があるとは言い切れない、というのが私の結論です。
水型エアゾール洗浄剤を使う水洗性浸透探傷試験は、アズウエルドの溶接部や、ボルトのねじ部の検査など、形状が複雑か表面が粗い試験体にはもう少し適用が広がっても良いのではないかと考えています。

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非破壊検査」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。
やはりお料理上手ですね。実験結果のとりまとめと文章表現はさすがと思いました。
仕事に余裕ができたら僕も何か実験してみようと思います。溶剤除去性浸透液に水をかけながらタワシでごしごし、という技はまだ実践していないので、まずはそのあたりを。

投稿: niwatadumi | 2009年10月 3日 (土) 22時00分

水型エアゾール洗浄剤を使う水洗性浸透探傷試験については、10年来関心を持っていくつかの実験を行っています。
粘度のことが問題になったら、粘度計で測るのが本筋ですが、粘度計がなければ判断もできないかというと、そんなことはないと思っています。
実際の検査をやっているときに起きる現象を理論的に考える癖をつけていれば、判断できることはあります。
浸透探傷の教科書に出てくる水+界面活性剤+油でできるゲル化したエマルジョンがどの場面で実際上出てくるかというと、勢いのある水のスプレーで水洗性蛍光浸透液を洗ったときに米粒のようなものとなって流れていくときなのです。
まぁ、見てきたような嘘はやめて、実際の現象を確認しようよ、というところです。

投稿: SUBAL | 2009年10月 3日 (土) 22時56分

簡単な実験ですがアイデアがある実験で非常に参考になります。
水洗性浸透液が水スプレーでうまく浸透液が除去されていることがわかります。あとは、洗浄処理で表面欠陥内部にに浸透液が残留するかどうかですが、私のところで実際に割れ等の表面欠陥がある試験体で確認した限りでは、指示模様が検出されます。
私のところでは溶接したままの状態(グラインダー仕上げをしないという意味です)で鋼溶接部のPTを適用することが多いです。
何故、PTを適用するかというと、目視だけでは表面欠陥を実用的には見落としてしまう場合があるためです。(低倍率のルーペでの確認も含めて舐めるように溶接部を観察すれば検出できる欠陥でも、一般的な目視による外観検査では見落とすことが少なくありません。)
それに対して、適正なPTを行なえば見落とすことなく確実に表面欠陥を検出できるということでPTを適用します。
そこで重要なことは欠陥指示模様と疑似模様・バックグラウンドの差異と考えています。(UTやET等でのSN比と考えてください)
溶接ビード止端部、ビード交差部、ビード凹凸部、ビードの重なりなどで表面欠陥が発生しますが、そこでは疑似模様も発生します。
溶剤除去性浸透探傷試験を行うと適正な除去処理を行ってもなかなか疑似模様がなくならず、正しい判定ができないことが多いです。
それに対して水スプレーを用いた水洗性浸透探傷試験ではその部分で余剰浸透液が除去され表面欠陥の内部の浸透液は除去されず、指示模様と疑似模様が判別できます。
あまり疑似模様が多いと検査員の心理的な要因(疑似模様が多いと不確かなものを欠陥指示模様と判断できなくなる)も含めて、何らかの指示模様が出ても根拠なく疑似模様としてしまい、欠陥を見落とす可能性が高まります。
以下は、SN比に関するもので、この方法が適正な方法というこことでないということを承知して読んでください。
水スプレーによる水洗性浸透探傷を知らなかった(まだ、製品がなかったかもしれません)ときに、板厚80mmの現場溶接部で板厚の1/3程度まで溶接して中断したものを再開する際に溶接止端に異常を感じて(目視では割れが判別できなかった)、PTを実施したのですが適正なPTを実施したら止端部で疑似模様か欠陥模様か判別できなかった。(感覚的には浸透液が次々とわき出し来るような指示模様でした<----あくまでも感覚的 あと、MTでは判別できませんでした)
そこで、再試験で除去処理の際に溶剤を直接スプレーして浸透液の除去を行い、現像処理を実施したところ明確に欠陥指示模様であることが確認できました。(この事例でPTでは疑似模様は回避できないもので、SN比=指示模様と疑似模様の差を大きくすることと感じました)
実際にその部分をガウジングすると欠陥高さが5mm以上ある割れでした。
それ以来新しく溶接した溶接部のPTでは、うまく余剰浸透液が除去できない場合、適正なPT以外にも直接溶剤をスプレーすることも行いました。(当該の箇所のグラインダーによる整形も部分的には行いましたが)
水スプレーを用いた水洗性浸透探傷試験を行なうようになってからそのようなことを行なわず、周りから批判されるような PTを行なわないですむようになったと思っています。

投稿: Ikegaya | 2009年10月 4日 (日) 03時54分

私のところでは、上のような簡単な実験だけではなく、多少手の込んだ確認もいくつか行っています。
たとえば、PT1やPT2の実技試験対策練習用に使っている試験体で両方の方法で試験をすると、きず指示模様は両方とも出ました(実際のPTの現場で検出するきずからするとずいぶん検出しにくいものの含む)。バックグランドとのコントラスト(SN比)は、実は水型エアゾール洗浄剤を使う水洗性浸透探傷試験のほうが圧倒的に優れているのです。作業時間は半分以下。
深さが浅く(5/100mm)開口幅も狭い(およそ5/1000mm)のメッキ割れ対比試験片を使って条件をいろいろ変えてみる実験もしました。両方の試験方法とも、最適条件下では同じように指示模様が得られました。両方の試験方法とも、最適条件を外れると現れない指示模様が出てきます。ウエスでのふき取り回数が多い、洗浄回数が多い、とかということです。つまり、試験技術者の技量によるのであって、その許容範囲が広いか狭いかの差になりました。この判断では、やや溶剤除去性浸透探傷試験が優位ということでした。
溶剤除去性浸透探傷試験でやりさえすれば、極小さなきずが検出できて、水洗性では不可能だというのは、少なくとも私の実験の範囲では簡単に言うべきではないということです。

>板厚80mmの現場溶接部で板厚の1/3程度まで溶接して中断したものを再開する際に

このケースの話は面白くとても参考になりました。

じつは妙な誤解をされて、一知半解の人が勝手に現場に適用されても困るのでブログの中で書くのを控えていましたが、溶剤除去性染色浸透探傷試験速乾式現像法で「洗浄剤を直接試験体にかける」というのがいついかなるケースでも許されないことか、というと実はそうではないのです。レベル3の解答では丸もありうる。なぜレベル2までの「答え」では例外を認めていないのかということを考えると、非破壊試験の求めているものその妙に触れるようでおもしろいですね。
水型エアゾール洗浄剤を使う水洗性浸透探傷試験を社会的に認知させることで、その辺のファジーさも解消できるということにもなるでしょう。


投稿: SUBAL | 2009年10月 4日 (日) 09時33分

いつも見て勉強させてもらっています。
今回の記事を見て上司に水洗性の浸透液と洗浄液を
購入依頼しました。
いろいろ種類があるので何を買えば良いのか迷い
今回PTレベル2の筆記試験を合格した後輩に依頼しました。
浸透液が試験体の材質によって違うものがある事や、
水は霧吹きじゃダメなのかな?など知らない事が
多かったです。
購入後、使ってみます。

投稿: アクア | 2009年10月 7日 (水) 21時01分

記事が少しでもお役に立てたとすれば、うれしいです。

>水は霧吹きじゃダメなのかな?

これは、私のところでも最初に試したことです。水が入ったエアゾールが1000円近くもするのですからね。
実際に試してみてください。それが一番でしょう。

投稿: SUBAL | 2009年10月 7日 (水) 22時00分

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