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SUS304の縦波音速

インターネットの世界で疑問に思った事を質問して知識や経験のある人に解答をもらうサイトがいくつかあります。Yahoo知恵袋は、大きいほうなのでしょう。ためになることもあるのですが、結構いい加減な解答もあります。そんな事は前提で利用しているのでしょう。
こんなのがありました。

超音波探傷器を使用します。SUS304金属の音速を教えてください。

SUS304は最もポピュラーなオーステナイト系ステンレス鋼です。質問者は、用語の使い方のぎこちなさからあまり経験がない人だと分かります。分からないから質問するのでしょうからそれは良いとして、問題はその解答です。

弾性率と密度の比の平方根をとると音速が計算できます。弾性率が193 GPa、密度が8.03 g/cm3なので、4900 m/sと求められます。ちなみにここで使った弾性率は縦弾性率なので縦波の場合です。

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音速=√(弾性率/密度)と考えて計算するとこの答えのように4900m/sになります。しかしこれ間違っています。超音波探傷ではSUS304の縦波音速は通常の鋼より少し遅い5780m/s程度になります。2割近いずれです。
じつはこれ、実際に超音波探傷をやったことがないけれど気体や液体の音波をかじったことがあるという人が陥りやすい間違いなのです。

SUS304で縦波音速が4900m/sになることがあるのですが、それは超音波の波長より充分細い直径の棒を伝搬させる場合なのです。この場合の音速を棒の縦振動音速(Bar Velocity)といいます。5MHzの超音波を使うとしたら、直径1mm以下ということになります。

自由固体の中での超音波の音速は、縦ひずみに対する横ひずみが拘束される事から、Bar Velocityよりは速くなります。ポアソン比による補正が必要なのです。このあたりは、「絵とき 超音波技術 基礎のきそ」に書いておきました。

なぜこの間違いを取り上げたかというと、アナログ超音波探傷器を使う場合であれば、探傷器の調整方法を基本通り実行すれば仮に音速について思い違いをしていても大きな間違いにはなりません。しかし、デジタル探傷器では音速が既知である試験体については探傷器に音速を設定して、これを元にエコーのデータを計算して表示してくれる機能が搭載されています。これを一知半解の人が使うと、きずを見落としたりきずではない形状に起因するエコーをきずと間違って認識する、などという基本的な間違いをしてしまう可能性があるのです。

気体や液体での音波や超音波に関して多少知識があるからと言って、安直に固体の超音波には当てはめないでくださいね、ということです。

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超音波」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。勉強になる記事でした(いや,いつもですが)。

>探傷器の調整方法を基本通り実行

デジタルUTのテキストを読んでいないのですが,調整の際,対象物の厚みをノギス等で実測した値に合うよう探傷器を微調整するという操作は記述されていないのでしょうか。僕が冒頭の質問を受けたら「自分で音速を測れ」と言ってまずこの方法を教えます。もちろん「金属」部についてであり,溶接部は対象外だと。アナログ癖が抜けてないのでしょうね…。

投稿: niwatadumi | 2009年12月18日 (金) 12時41分

この意見に全く同感です。
少なくとも、質問者が超音波探傷試験を行いたいと言っているなら、回答者は音速を確認する(実測するも良いですし、文献を確認するのも良いと思います。極力、実測してそのバラツキも検討してればよいのですが)ことが必要と思います。
その一方で、最近私は理論的なことも確認して、自分が計算で求めたものが確認した音速値と異なっていないか確認することが重要だと思っています。
そこで、実際にそのような作業をしてみました。
なお、私の知識としては音速C=√(k/ρ)で計算されると覚えています。
ただし、実際に計算するにあたっては、固体ならk=K+(4/3)G (K:体積弾性率、G:横弾性率)としています。(ポアソン比での補正ならk=E×(1-ν)/((1+ν) (1-2ν))となりますが前の式の方を覚えています。計算結果は同じです。)
ここで、ρ=7.91×10^3kg/m3、E=193GPa、G=74GPa (体積弾性率KはK=E/3×G/(3G-E))これらを計算すると縦波音速は5764m/secとなりました。(ポアソン比での補正での計算でも同じ値です)
ついでに同じ条件で横波音速を求めると3059m/secとなりました。
文献によって、ρ、E、Gの値は異なっていますので、試しにそれぞれの数値で計算した所、縦波の音速が6000〜5700m/sec、横波音速が3160〜3035m/sec位の範囲になりました。
久しぶりにまじめに計算してみました。

投稿: Ikegaya | 2009年12月18日 (金) 16時21分

Ikegayaさん 詳しい解説を有難うございます。

JSNDIのUTⅡの教科書では、音速=√(弾性定数/密度)と書かれていて、もちろん弾性率とは書かれていません。縦弾性係数、横弾性係数、体積弾性率を区別して、さらにそこから導き出される定数という少しややこしい話になりますから、固体の超音波探傷だけを考える場合にはこれでよいのですが、わたしはこの弾性定数ってなんだろう、気体・液体のときのようになぜ弾性率(体積弾性率)でないのだろう・・・と余計な事を考えてしまうのです。

多分デジタル探傷器が普及してくると、探傷技術者の中に、ビーム路程を波形から直感的に読み取る技術は次第に後景に追いやられるようになり、ディスプレー上に表示されている数値の一人歩きが起きるのでは・・・。おじさんはそんな心配をしています。この記事は、その心配の吐露というところなのです。

投稿: SUBAL | 2009年12月19日 (土) 00時38分

niwatadumi さん こんにちは

デジタル探傷器であっても、時間軸の調整の考え方はアナログ探傷器を使う場合と同じでしょう。
標準試験片で横軸を調整する場合には、試験体と標準試験片との間に音速の違いが実用上支障がない程度に一致している事が前提になります。
デジタル探傷器で考えると、音速が既知の試験体の場合には、音速設定とゼロ点調整で横軸の校正も可能になります。実技参考書デジタル編では、こうした簡易調整法を紹介しながら、基本は既知の寸法からの2つのエコーを利用する2点校正をベースにして書かれています。

ここでの問題は、試験体の音速が分からない場合にどうするかですが、ちゃんとした方法で実測する事が基本ですよね。デジタル探傷器を使うとアナログ探傷器を使うよりは簡単に測定できます。その場合でも、試験体の材料データから音速を計算して概略値をつかんでおく事は重要だと思います。そこで一知半解の人から上のような計算結果なるものを示されたときにちゃんと反論できるようになっていたいですね。デジタル探傷器では音速も表示されますから、「どうしてだ」なんて詰問調の質問が来るなんて場面もありそうです。

投稿: SUBAL | 2009年12月19日 (土) 12時10分

はじめまして  早速ですが、

音速C=√(k/ρ)で計算

k=K+(4/3)G (K:体積弾性率、G:横弾性率)。 (ポアソン比での補正ならk=E×(1-ν)/((1+ν) (1-2ν))

とありますが、今とりあえず、SUS316Lの計算をしていますが、
体積弾性率とか横弾性率などの調べ方が分かりません??

また、いろんな材料をインターネットで調べる方法があれば教えていただけないでしょうか。

投稿: | 2011年1月24日 (月) 19時14分

私のような実務屋からすると???な質問ですね。304と316の微妙な音速の違いを実測ではなくて計算で求めようとする人が、ネットでの調べ方を還暦間近のおじさんに聞いているというのは、老人ホームに行ってAKB48のメンバーの誕生日を聞いているようなミスマッチだと思いますよ。私の学生だったら、「手間隙を惜しまずまず文献を当たりなさい、少なくとも理科年表からヤング率とポアソン比を調べるぐらいのことはやったのか」とアドバイスしますがね。

投稿: SUBAL | 2011年1月25日 (火) 03時46分

こんにちは

わたしは、パソコンがあまり得意ではなく、個人情報の漏洩とかテレビで見て、かなり警戒しています。
正直このサイトの閲覧の仕方もあまり分からず、このメールが本当に届いているかさえ心配しているほどです。

簡単に、わたしは、船舶、橋梁、プラント等、西日本で検査をしています。

中卒であり基礎学力がありませんが、なんとか、PT2,UT2,RT2,MT2を取得し、高卒、大卒、の中でついていくのがやっとです。
最近は仕事も忙しく勉強する暇もあまりなく、インターネットで、いろいろと調べています。が調べ方もまだあまり分かりません。
横弾性率等、いろんな材料の調べ方があれば教えていただけないでしょうか。

投稿: ttm-e | 2011年1月25日 (火) 23時12分

検査をやっている方であるならば、音速はまず実測で求めることを考えるべきであると私は思います。
計算では目安をつけることぐらいです。計算で目安をつけるという範囲であれば、同じオーステナイト系ステンレスである304と316の音速はほとんど同じと考えて良いと思います。つまり、このコメント欄のIkegayaさんが示している音速範囲ということです。
どうしても計算でといわれるのであれば、GはEとポアソン比があれば計算できますが、次のURLを参照してみてください。
http://www.bssa.org.uk/topics.php?article=139

最後に言わせていただければ、PT2,UT2,RT2,MT2を取得して仕事をしているのであれば社会的に認知されたプロですから、学歴を逃げ口上や言い訳に使わないほうが良いと思います。NDTの内容は高校でも大学でも通常教わりません。ましてネットの検索の仕方なんてどこでも教えてくれません。あえて言えば、三角関数と対数・指数と微積分の考え方だけは中学では教えませんから、ちゃんと「使える」程度に勉強しておいたほうが良いかも知れません。
NDTの世界には中卒で立派な業績を残し、定年後に博士号を取得した方もいらっしゃいます。
その方は特殊な例としても、私を含めてこの世界の多くの人は仕事をしながらの独学です。30歳を過ぎれば学歴は「独学」なのです。

投稿: SUBAL | 2011年1月27日 (木) 03時24分

SUBAL さん  ご回答有難うございます。
英語が分かりませんが勉強しながら見たいと思います。

このサイトの見方が少し分かりました。
以前はSUS304へ直接飛んだので、どうやって開くのかが分からなくなっていました。

こんな投稿をするのが初めてなので、どう自己紹介したらいいのか分からず、いろいろ書いて学歴も自己紹介のつもりで書いたのですが、気に触りましたら申し訳ありません。決して逃げるつもりはありません、博士号とまではいきませんが、一生続けようと思います。ちなみに差し支えなければ博士号の方のことをもう少し詳しく教えていただけないでしょうか。無理でも大きな目標としたいです。 

本題に入りSUSの事ですがクラッド鋼の壁で実測ができずSUS側も衰耗環境にあり、SUSか鋼のどちらが衰耗か超音波計測と計算で算出しようと思ったのですが無理だと思われますか??

投稿: ttm-e | 2011年1月31日 (月) 20時58分

そうですか、余計なことを言ってしまったかもしれませんね。

博士号の話は、そのうちこのブログで取り上げようと思います。私が尊敬する方で、高橋雅和さんというお名前の方です。「高橋雅和 超音波探傷」で検索するとたくさんヒットします。

クラッド鋼の話は、お話だけでは変数が多すぎて解が得られないのではという気がしますが、研究というのは出来そうもないからやる意味があるとも言えるのかもしれません。頑張ってください。

投稿: SUBAL | 2011年2月 1日 (火) 20時41分

初めまして。古い記事にコメントを付けて申し訳ありません。
金属ことを調べていてこちらにたどり着きました。

そもそもの疑問は
「理想的な状態・空間にある長さ1kmの金属棒を1cm押したら、その反対側は何秒後に1cm動くのか」
ということを調べていました。
もちろん1cm動かすのにもある程度時間はかかるでしょうし、色々条件はあると思うのですが、基本的に『力は音速で伝わる』、だから反対端の移動も音速で決められる、と考えてよいのでしょうか。

波の伝わりと物質の移動を混同していての混乱だとは思うのですが、どこで躓いているのかが分かっていない状況です。

ヒントを頂ければ嬉しいと思い、書き込みさせていただきました。

投稿: Kenny | 2013年8月18日 (日) 15時07分

Kennyさん

こんばんは。
ブログ記事内容とかけ離れた内容ですが、面白いので別記事にしました。
私の名前のところをクリックしてみてください。
http://subal-m45.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/1km1cm1cm-9a40.html

投稿: SUBAL | 2013年8月18日 (日) 19時21分

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