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応力拡大係数のKとアーウィン

破壊力学のキー概念である応力拡大係数はKと表記されますが、それはJoseph A.Kiesさん(1906-1975)のKであるらしいことを以前に紹介しました。「そんなことはどこに書いてあるのか」との突っ込みをもらって、「Fracture Research in Retrospect」という本の66ページにこんな記載があることを紹介しました。

Kies solved this problem by pointing out that the critical stress for a given crack size depended only on the product GcE, which could be directly computed from applied stress and crack size for the test. The response to this suggestion, by West Coast airplane engineers, was to express their fracture test results in terms of values of √(GcE),which they termed Kc(K for Joseph A. Kies).

それでも、「応力拡大係数のKを個人名からとるはずがないのでは」という疑問が投げかけられていました。私は、応力拡大係数(K)の臨界値(critical value)である破壊靱性(Kc)の由来がKiesのKである以上、応力拡大係数のKも同じと考えるのが自然だろうと考えていました。でも、決定的な証拠や証言ではないだろうといわれると、確かにそうだけど・・・ともやもやしました。

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最近、こんな記載を見つけました。大阪大学の元工学部長豊田政男氏がG.R.アーウィン(George Rankin Irwin (1907 -1998))から直接聞いたはなしとして紹介されています。

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アーヴィン教授は,68歳にして初めて日本を訪問された.その折,奈良を案内する機会に恵まれ,奈良公園を案内したことがある.東大寺大仏殿を訪れたが,大概の人は大仏そのもの大きさなどに興味を引かれるが,先生はしきりに大仏殿の屋根を眺められ,このような大スパン木造構造をどのように設計・製作してあるのかに興味を抱かれ,構造などについて説明したことを覚えている.興味の持ち方の違いを感じた.その際,奈良ホテルで夕食をした折りに,破壊力学の論文で先生が導入された亀裂拡大力,及び応力拡大係数をG-値,K-値と決められたわけをかねがね知りたいと思っていたので伺ったところ,Gは先駆者 Griffithの,Kは先生の師のKiesの頭文字ということであった.それまでは,先生の名前がGeorgeなので,その頭文字かと思っておいたのだが.先生はその折,先達や師に対する敬意を込めてのことだと話された.
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信憑性は高いといえるでしょう。アーウィンは破壊力学の父といわれている人です。

豊田氏の以下のコメント、後半はなるほどそういう見方もあるかと思いました。
「何か新しい発見をした折,自分の名前を真っ先に付ける人も多い.それがステータスだとの「幻想」を抱いている人も多いと思われるが,そこにアーヴィン教授の人柄が伺えるような気がした.それとも,先人を越えた自信と余裕がそうさせたのかも知れない.そのような自信のもてる仕事をせよということかもしれない.」

私の記憶では、キースはアーウィンの1歳年上で、海軍の先輩後輩の関係だったはずです。師と弟子という関係だったのかなぁ?もちろん教えを請うことは必ずしも年上とは限らず、年下の人からということもあるのは私の経験からもいえますけれど・・・。
今日の記事は備忘録。

追記:アーウィンが初めて日本を訪れたのが68歳のときとすれば、1975年になりそうです。1975年はキースがなくなった年であることにこの記事を書いて気がつきました。破壊力学の本や論文を読んでいると、アーウィンの名前は必ずと言ってよいほど出てきますが、キースの名前が出てくる事はめったにありません。ただ、応力拡大係数のKやKcはこれを出さずに破壊力学を論じる事は不可能といえます。アーウィンとキースとの間にただならぬ信頼関係があったことは間違いないでしょう。

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コメント

Kies 自身がIrwinの業績を書いた論文に以下の記述があります。
[Irwin Originally used the subscript K to go with G. Kies et al name K, "the Irwin's Stress intensity factor".]

投稿: Kenji Hirakawa | 2010年2月21日 (日) 11時47分

Kenji Hirakawa さん
情報有難うございました。これで、文献的にも確認できたということですね。

Irwinの業績を紹介した以下のURLにも似た記述がありました。

http://www.eng.umd.edu/ihof/inductees/irwin.html

G.R. Irwin and J.A. Kies are shown examining a nozzle ring fracture which occurred during proof testing of a high strength steel rocket chamber. Irwin introduced symbol G (for A.A. Griffith) to represent the crack-extension force and the symbol K (for J.A. Kies) to represent the stress-intensity factor.

投稿: SUBAL | 2010年2月21日 (日) 12時26分

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