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フェイズドアレイ探傷器ではなぜ実際の欠陥の形で現れないのか

 ブログで色々な記事を書いていますと、時々メールで質問が来ることがあります。質問をきっかけに技術的な交流に繋がることもあります。最近もありました。
 でも、私は積極的に自己紹介をしないでいきなり質問をしてくるのはマナーに違反していると思いますので、基本的には返事を書かないことにしています。
 昨日も名前だけを書いた質問のメールが入りました。ただ内容的には面白い質問でしたので、ブログ記事にします。
 その質問とは、以下のような内容です。

「超音波を勉強中でブログを拝見させていただいているのですが、医療用超音波だと実際の赤ちゃんの画像がわかるのに、フェイズドアレイ探傷器は実際の欠陥の形で現れないのはなぜなのでしょうか?」

 医療で行う超音波検査では、最近では赤ちゃんの表情までわかる画像が得られます。赤ちゃんの超音波写真という人もいるくらいです。ところが金属を扱う超音波の世界では、フェイズドアレイ探傷器で断面画像を得ても、実際のきずのかたちとずいぶん様子が違う画像になります。円形断面のきずが、あたかもブーメランのかたちのように表示されます。

 これがいったいなぜなのか、という質問なのでしょう。

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 医療界で使われる超音波検査装置はフェイズドアレイの技術を使っています。金属に適用されるフェイズドアレイ装置と原理的には同じものです。使っている周波数も2~5MHz程度でほとんど同じです。
 では何が違うのかといえば、波長と音響インピーダンスの差が違うのです。

1.波長が1/4
 私は超音波の超音波らしい性質を決めるのは、周波数というより波長であると考えています。
 波長と周波数と音速は、波長=音速/周波数という関係になります。鋼の縦波音速は5900m/s、それに対して人体中の音速は1500m/s程度でほとんど水と一緒です。鋼と人体では同じ周波数では、人体中を伝搬する超音波の波長は鋼中のおよそ1/4になります。

2.波長が短いと分解能が上がる

 波長が短いと、近接した2つの反射源を分けて表示できるようになります。このことを分解能といいます。波長が1/4になれば当然分解能は上がります。ですが、このことは今回の質問に対する答えとしては、本質的ではありません。きずのかたちと、金属をフェイズドアレイ探傷器の表示器に現れる像とでは、分解能云々の話をはるかに超えてずれているからです。

3.波長が長いと超音波ビームが広がる

 超音波になると、特定の方向に音を伝搬させることができます。超音波に指向性があるからです。この超音波の指向性の鋭さを決めるのが波長と振動子の寸法です。振動子の寸法が同じであれば、波長の短いほうが鋭い超音波になります。超音波ビームソフトで描いた次の図でわかるように、鋼を伝わる超音波のほうが指向性が鈍く、少しもやっと広がった超音波になります。

Steelvsbody

4.反射源の音響インピーダンスの差

 超音波の反射は、異なる物質の境界で起きます。反射率は、2つの物質の音響インピーダンス(音速×密度)の差で決まります。人体の場合は、脂肪組織と筋肉あるいは骨でさえ音響インピーダンスの差はあまり大きくはありません。鋼の場合は、境界は鋼と空気で音響インピーダンスの差は桁違いに大きいのです。

 鋼の中では、超音波は人体に比べるともやっと広がって進み、超音波の中心軸を外れて広がったところでもよく反射してきます。輝度変換をして断面表示する場合は、中心から外れた位置からの反射も中心軸上からの反射としてプロットします。これが円形断面のきずがブーメランのように表示される理由です。

5.フォーカスを鋭くかけられるのは近距離音場

 医療用の超音波検査結果が最近富みに鮮明になっているのは、フェイズドアレイの中でも特定のポイントに超音波のエネルギーを集中させるフォーカシングをしているからです。このフォーカシングを鋭くかけられるのは近距離音場という探触子から近い(D^2/4λ以下)範囲です(こちらを参照してください)。 つまり波長が長くなると近距離音場は短くなります。

以上噛み砕いて説明をしてきましたが、短い文章で説明するには限界があります。前提としている用語や現象についての理解が不足していると???になるのかも知れません。その場合は恐縮ですが、「絵とき 超音波技術 基礎のきそ」を読んでください。

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