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ある大学教授の見解2「1ミクロンの亀裂が有ると、装置は急速な破壊に進む」

 福島原発事故の遠因が非破壊検査のありようにある、というトンデモ説を展開している大学教授(こちらのブログ)。ご自身の研究成果を元に、起業をされているようです((株)光子発生技術研究所)。研究成果については、詳細はわからないものの、紹介されている限りでは大変まじめなものでもしかしたら画期的なものなのかもしれません。多分そうなのでしょう。

 ただ非破壊検査業界に開発した装置を売り込もうとしたときに、私から見ると非破壊検査技術とその周辺の技術の現状(State of the Art)を学びそこなって、ピントをはずしてしまっていると見えます。

 それを象徴する叙述が「1ミクロンの亀裂が有ると、装置は急速な破壊に進むから、1ミクロンの亀裂を発見できる精度がなければ検査をしたことにはならない。」というものです。教授は、この認識を元に「原子炉部品や飛行機部品の合格基準を改定する必要が有るのではないか?」と提言し、それをしない非破壊検査業界をなじっているわけです。自らが開発した装置を使うように法律を変えなさい、ということです。

 う~ん、教授、無理がありますよ。論の出発点がまず間違っています。 

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 部材の中にきずがあると、材料強度以下の応力であっても破壊につながることがあります。だから非破壊検査が必要です。そのきずが亀裂であった場合では、一定の条件下で亀裂が急速に進展して、大きな破壊事故につながることがあります。線形弾性破壊と呼ばれる破壊の仕方です。歴史的にはリバティー船の破断事故、JAL123便御巣鷹山墜落事故などでは線形弾性破壊が起きたとされています。

 線形弾性破壊が起きるか否かは、遠方応力と亀裂のサイズをパラメータとする応力拡大係数(K=Fσ√(πa))が、材料定数である破壊靱性値を超えるか否かで判断できます。これが破壊力学の基本となる認識です。

 詳細な展開は避けますが、通常構造材料で使われる鋼材では破壊靱性値はMPa√mの単位で三桁か三桁に近い値をとります。このような材料では、応力が4~500MPaあるとしても線形弾性破壊がおきる亀裂のサイズは、数十mmから場合によってはメートルのオーダーになります。ちなみにJAL123便では疲労亀裂が800mmに到達してしまったことによって大規模な破壊が起きてしまいました。

 10ミクロン(1/10万m 0.01mm)の亀裂があることによって急速破壊をするような材料は構造材料としては使われていません。ガラス以下の脆性材料ですからね。

 そのような材料が使われているとしたら、あちこちで破壊事故が起きています。1ミクロンの亀裂が検出できなければ検査したことにならない、としたら現在の非破壊検査は安全管理に何の役にも立っていないことになります。そんなことはありません。

 簡単にはこちらのソフトでも確認できます。

Stress_intensity_factor2

 ここまで言うと教授は「そこが問題なのだ。非破壊検査関係者はすぐそんなことを言う。だから問題提起しているのだ。」といわれるのかもしれません。ごめんなさい、あなたが間違っています。これを覆すのであれば、非破壊検査技術者に文句を言うのは筋違いです。破壊力学の成果に対して教授の反論を展開する必要があるのです。教授の大学でも機械工学の講義の中で教えているはずです。まずその学生たちとそれを教えている教員を説得してください。

 では、教授の「装置」は何の意味もないのかというと、そうではないでしょう。疲労亀裂や応力腐食割れの検出とサイジングにミクロンオーダーの解像度と精度が出るのであれば、損傷許容設計思想に基づくシステムの中で有力なツールになる可能性があるのかも知れません。要するに認識と売り込み方が違うのです。より小さなきずを単に検出することを競う時代はとっくに終わっているのです。

 安全管理技術の現状とその中でどのような装置と機能にニーズがあるのかの調査がされていないか、されているとすれば判断が違っている、私はそう思います。

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科学技術」カテゴリの記事

コメント

ご意見ありがとうございます。
1ミクロンの検査をやる必要がないというご意見ですね?
現在の非破壊検査精度は、1mm程度だと理解していますが、ご意見は、非破壊検査は1mm程度でやれば十分であるということでしょうか?1mmもの欠陥があれば、その装置は使うまでもなく使い物にならないと思いますが?そのような検査をやることの意味があるのでしょうか?結局のところ1mmの癌は見つける必要がないといったお医者さんや、見えすぎでこまるとおっしゃる土木やさんと同じですね?
非破壊検査をやることの意義をご教授いただければ幸いです。

投稿: DrHironariYamada | 2011年10月27日 (木) 22時38分

(続)
実際に、ミクロンオーダーで非破壊検査をしてほしいという要望が多数舞い込んでおりまして、事業は成り立っているのですが、私どもがやる非破壊検査と皆さんがやる非破壊検査はだいぶ異質なもののようですね。

投稿: DrHironariYamada | 2011年10月27日 (木) 22時46分

DrHironariYamadaさん

落ち着いて私の文章を読んでください。ミクロンオーダーの亀裂から急速破壊をする材料は使われていないと言っています。時間依存型の破壊(疲労割れ SCCなど)を検出しサイジングすることに意味があるといっています。ミクロンオーダーで急速破壊をする材料がどこに使われているかまず教えてください。議論はそこからです。

投稿: SUBAL | 2011年10月27日 (木) 23時04分

すみません、もしかしたら既に何方かがコメントされているかもしれませんが。

1.”線形弾性破壊”という破壊モード(形式)はあるのでしょうか?Googleで検索しても線形弾性破壊力学や線形弾性破壊靭性という言葉はヒットしますが、”力学”や”靭性”の付かない線形弾性破壊はヒットしません。文意的には脆性破壊のことを指していると拝察いたしますが。

2.リバティー船の破壊モードは脆性破壊ですが、JAL123便の破壊モードも同じなのでしょうか?寺田さんの新しい本は未だ読んでいませんが、失敗知識DBでは圧力隔壁の破壊過程を”マルチプルサイトき裂の連結によるき裂の急速な拡大”と説明しており、いわゆる脆性破壊とは根本的に異なる現象であるように思われますが。

某教授のブログ記事がロクなものでないことは確かですが、それを指摘する側も”他山の石”という言葉をココロに留めておく必要があるように思います。

投稿: pero | 2011年10月27日 (木) 23時29分

DrHironariYamada wrote:
>実際に、ミクロンオーダーで非破壊検査をしてほしいという要望が多数舞い込んでおりまして、事業は成り立っているのですが、
------
材料中のミクロンオーダーの傷や割れを検出したい、というケースは確かにありますね。 ただしそれは今現在はかなり限定された用途でしかないですね。

DrHironariYamada wrote:
私どもがやる非破壊検査と皆さんがやる非破壊検査はだいぶ異質なもののようですね。
------
別に”異質”では無いでしょう。ただ要求のレベルが違うところを見ているだけです。世の中には目視やPTでマクロなき裂を発見すれば事足りるケースから、ppbオーダーでの不純物原子も許されないケースまで幅広く存在するということです。自分の見ている、知っている場所が世界の全てだと思うのは、なんて言うんでしたっけ?

投稿: pero | 2011年10月27日 (木) 23時40分

peroさん ご忠告ありがとうございました。


>”線形弾性破壊”という破壊モード(形式)はあるのでしょうか?

モードと言ってよいのかはわかりませんが、「塑性崩壊」「弾塑性破壊」に対して「線形弾性破壊」と言っても良いのだと認識していました。何らかの文献的裏づけを持って使っていたと思いますが、今すぐ出てきません。私の勘違いの可能性もありますので、調べてみます。この手のどじはしかねないですので・・・。
ただ検索では、こんな表現は出てきます。小林英男先生も共著者になっている論文の抄録の一部です。

it was shown that various types of fractures from the linear-elastic fracture to the plastic collapse, including the stable crack growth of the elastic-plastic fracture, were predicted precisely for the five materials.

>JAL123便の破壊モードも同じなのでしょうか?

はいそうです。修理ミス→マルチプルサイトき裂の連結→静的な安定破壊というような少々複雑な過程を経ますが、最終的には亀裂長さが限界寸法に達して(すなわち応力拡大係数>破壊靱性になって)急速不安定破壊に至ったのです。従って、圧力隔壁が最終的に大きく破壊したメカニズムは、リバティ船のそれと異なるものではありません。

投稿: SUBAL | 2011年10月28日 (金) 02時09分

SUBAL wrote:
>モードと言ってよいのかはわかりませんが、「塑性崩壊」「弾塑性破壊」に対して「線形弾性破壊」と言っても良いのだと認識していました。
------
なるほど、損傷事故の解析などではもう少し具体的な破壊メカニズムによって破壊形態を分類するようですが、”塑性変形を全く、あるいは小規模にしか伴わない破壊”に対する総称ということで、学術用語としてはあるのかもしれません。

SUBAL wrote:
>従って、圧力隔壁が最終的に大きく破壊したメカニズムは、リバティ船のそれと異なるものではありません。
------
最終破壊の部分の機構を指しておられたのですね。読み直してみると、確かに”起きたとされています”と書かれていました。事故の話だと損傷が起き始めの部分の原因/メカニズムが注目されることが多いので、そういう意識で文意を読み違えてしまいました。失礼致しました。
JAL123便の事故では、隔壁が一気に破壊した事による圧力波が尾翼を吹き飛ばし、それが山中へ墜落するに至った大きな要因となったようですので、破壊としては最終段階の事象でも、事故の結果に及ぼした影響という意味では、重要だったと言えますね。

投稿: pero | 2011年10月28日 (金) 03時14分

 ミクロンオーダーの亀裂の問題が議論されているようですが、小生の知見を投稿します。
 実際の機械構造物に用いられている材料に小さい(ミクロンオーダー)亀裂が存在して、外荷重が作用する場合の亀裂の挙動は、亀裂周りに発生する降伏域の大きさが亀裂の大きさと同じオーダーになり、しかも材料の結晶構造・組織の影響を受けることなどのために、線形破壊力学が成立しなくなります。  破壊力学の専門家では、この問題が重要と考えられ、この10年でも数回の国際会議が開催され、発表された論文の数は数百、研究者は世界で1000人以上です。
 この微細亀裂の強度の問題は国際会議では[short crack]
あるいは[Small crack]と呼ばれています。両者の破壊力学意味の違いをご存知のレベルで議論しているのでしょうか。
 peroさんはニックネームでなく実名で議論に参加するべきです。外野席からやじっているのと同じです。某大学の教授は亀裂を検査している材料と構造を教えてください。


投稿: Kenji Hirakawa | 2011年10月28日 (金) 10時35分

 微細亀裂が強度に及ぼす影響が議論されているようです。問題は、どのような材料にどのような荷重が作用するときに、どのような形態の亀裂があるかを明確にして議論しないと、それぞれが反論し合うだけになると思います、
 一大学の教授殿、ぜひどのような材料にどのような応力が掛かるときに1ミクロンの大きさの亀裂が致命的な欠陥となるのか、貴殿が対象としている材料の構造と破壊の形態を教えてください。

 例えば、私の専門の鉄道車両用車軸の実物大の疲労強度は、軸表面にある亀裂の大きさが100ミクロン(100μmm)ではほとんど影響がなく、1000ミクロンでは60%低下することが知られています。これはSubaruさんの言う線形破壊力学の計算とほぼ一致します。(ドイツ高速鉄道ICE-3ケルン脱線事故 慧文社 参照されたい)。
 
 微細亀裂が材料強度に及ぼす影響に関しては、亀裂の先端に生じる塑性変形域が亀裂の大きさと同じオーダーであること、材料の結晶構造や組織の影響が大きくなり、微細亀裂の挙動に関して線形破壊力学が成立しないことが知られており、
これに関する国際会議がこの10年でも数回にわたって開催され、数百の論文が報告されており、1000人を超える研究者が参加しています。
  この微小亀裂の問題は、「short crack」あるいは「small crack」問題といわれています。この、「short crack」あるいは「small crack」の違いをご存じで議論しているのでしょうか。peroさん、ぜひニックネームでなく実名で議論してください。そうでないと外野席からヤジを言ってるのと変わりません。


 

投稿: Kenji Hirakawa | 2011年10月28日 (金) 18時41分

Kenji Hirakawa さん

情報ありがとうございました。ミクロンオーダーの亀裂の挙動が盛んに研究されているのですね。
ミクロンオーダーの亀裂では亀裂先端付近の塑性変形域が相対的に大きくなって小規模降伏条件が前提の線形破壊力学が適用できなくなることは理解できます。その場合に、停留亀裂になるのかならないのかということはあるにせよ、通常使われる構造材料や機械材料の範囲でその亀裂から急速不安定破壊は起こることはないだろう推察しますが、場合によっては起きるというような報告や議論はあるのでしょうか。

これだけの規模で研究がなされているとしたら、かの教授の装置もこの分野の研究ツールとして活用される可能性があるのではないでしょうか。もう活用されているのかな?

投稿: SUBAL | 2011年10月28日 (金) 19時04分

匿名と実名の件です。

Kenji Hirakawa さんが言われるように、この手の議論は実名でできれば面と向かって行いたいものです。一方が実名で、相手方が匿名はアンフェアーだとも思います。(私は匿名や単なる名前だけでメールで質問や何らかの依頼をしてくる人には返事をしていません)

しかし、このブログの管理人としてはハンドルネームでの投稿も可としております。日本におけるネット環境は個人名をさらして議論を行うにはいかにも未熟と判断しています。私自身も、SUBALという名前を使っています。ブログを読んで少し調べれば、本名も勤務先も明らかで、99%本名をさらしていると認識しています。それでも残りの1%で、職場での人格や立場と区別したいと考えています。公私を区別できない風土で、家族の生活を支えなければならない責任を考えてのことです。ほとんど無意味という感じもしますが・・・(笑)。
ハンドルネームで書き込みをする方は、外野席からの野次にならないように気をつけてコメントしてください。目に余る場合は、私がブロックします。ただし外野席からの応援は歓迎します。

Kenji Hirakawa さんが偽名ではなくあの方であることは私には十分理解できますが、ここに訪れる人すべてに認知されているわけではないと思います。

投稿: SUBAL | 2011年10月28日 (金) 19時36分

2回目のコメントで、Kenji Hirakawa さんがどなたかは明らかになりましたね。

投稿: SUBAL | 2011年10月28日 (金) 19時53分

ニックネームの件。今回は立命館大学の何学部、何教授と分かっていて、議論しているのですから、批評するほうも自身の名前で話す必要があると思います。

投稿: Kenji Hirakawa | 2011年10月28日 (金) 22時13分

私は、この場合実名を出さなければ意見を述べることはできないとは思いません。

かの教授が自分の所属と名前が追えるかたちでブログ記事を書いたのは,彼の意思です。彼が彼のブログで「自分は名前をさらしているのだから本名以外のコメントを受け付けないと」するのであれば、それは自由です。しかしここは私のブログです。公にされた見解に、どのような形で評論するかに形式上の制限はないと思います。
著名な大学の教授という権威を振りかざして、身勝手な論理で、いまの非破壊検査業のありようが福島原発事故が起きる日本文化の特徴を示している、などというとんでもない暴論を公にしたのは彼なのです。私から見ると権威を振りかざした暴力です。このブログ記事は、この暴力に対する私なりの抵抗です。それでもかの大学に関係する友人もおりますから、大学名と個人名をこのブログに掲載することは避ける配慮をしてきたつもりです。
Kenji Hirakawaさんが問題にしているperoさんは、私に対しても、思い違いから少々失礼な言い方をされています。しかし、このぐらいのことはありうることでしょう。許容範囲だと思います。本名を出すか出さないかではなくて、言っている内容が正しいか適切か、あるいは失礼か、議論をすればそれでよいと思います。
私は、peroさんにかぎらず、このコメント欄にハンドルネームで投稿することを容認していますし、この考えを変えるつもりはありません。もちろん本名での投稿も歓迎します。

投稿: SUBAL | 2011年10月29日 (土) 00時46分

原子炉の事故は、あまり公に成っていませんが、実際には頻繁に起きているようです。配管の亀裂からの漏洩です。ステンレスで作られていると思います。特殊な金属を使用しているという話しは聴いたことが有りません。特に溶接部が問題となります。溶接技術の高度化が現在要求されているのは、その様な背景です。subalさんはよほど自信がおありのようですね。現在私の研究室では、原子力関連の公的な研究機関から、実際にミクロンオーダーの亀裂を観察する依頼を受けています。

投稿: DrHironariYamada | 2011年11月 2日 (水) 01時38分

DrHironariYamada さん

 ご返事ありがとうございます。
 こういう議論は、対象にしているものと用語はあいまいにせずはっきりしたほうが良いでしょう。これらが違っていてすれ違うやり取りは、お互い時間の無駄になると思います。
 「原子力発電所」「ステンレス」「亀裂」「漏洩」という用語から私が連想するものといえば、SUS304とSUS316に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼に生ずる応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)です。
 SCCがオーステナイト系ステンレス鋼の配管を貫通して漏れ事故になった事実は、公にされています。公にされているというレベルではなくて、SCCは原発における損傷としては、代表的なものと言っても良いのです。
 DrHironariYamadaさんが、「1ミクロンの亀裂が有ると、装置は急速な破壊に進む」といわれる場合に、装置の材料はこれらのオーステナイト系のステンレス鋼であり、その亀裂はSCCであり、「急速な破壊」とは漏洩にいたるSCCの配管貫通のことをさしておられるのですか?
 それとも、SCCとは別の1ミクロンの亀裂から「急速な破壊」事故が実は起きていてそれは公にされていないということなのですか?

投稿: SUBAL | 2011年11月 2日 (水) 20時36分

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