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ジェットエンジンの技術を応用した包丁「SAKON+」

 私の退職を知ったIHIとIHIMUの方が、「千歳に来ているから一緒にランチをとりましょう」と誘ってくれました。私に対する「ご苦労さん会」をやっていただけるというのです。利害関係だけから言ったら、学校を離れる私は企業側からすれば用なしのはずです。
 美味しい昼食をいただきながら、思い出話やこれからのことに話が咲き・・・楽しいひと時を過ごしました。終わりに近づいて先方から「これプレゼントです」と言って差し出されました。2つあって、「IHI MARINEUNITED」の羊羹と包丁でした。羊羹(これも美味しかったですが)はともかくとして、包丁???何で?・・・と思いましたが、話を聴くとちょっと感動しました。

 この包丁、「SAKON+」という名で、只者ではありません。IHIのジェットエンジン・タービンブレード用に開発されたコーティング技術を応用したまったく新しいタイプの包丁だというのです。こんな箱に入っています。

Ca3g0174

穂岐山刃物という会社が製造販売しています。

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携帯電話のカメラなので画質は悪いですが、こんな包丁です。

Ca3g0175

「IHI技報」に掲載されたこの包丁の紹介(こちら)によると、

「航空機エンジンのタービン翼に使われているコーティング技術を包丁に適用して,切れ味が持続する包丁を開発した.放電エネルギーで超硬質粒子とステンレスの金属組織を融合させるため,包丁を使用すると刃道にマイクロメートル単位の極微細な鋸のこぎり状の刃が再生される」

とのことです。

異種材料を表面にコーティングする技術としては、近年溶射が様々に技術開発がされて適用されています。しかしこの包丁に適用されたコーティング技術は、溶射というより放電加工技術の延長にあるようです。放電によって母材側をわずかに溶かして異種材料を結合させる仕組みのようです。ジェットエンジンの技術としては、三菱電機とIHIが共同開発したマイクロスパークコーティング ( MSCoating )と呼ばれ、包丁に適用されることでvee-tech(Vivid Edge Technology に由来)と命名されたとのことです。MSCoatingについてはこちらの「IHI技報」を参照してください。

拙書「破壊の科学」で、「ほこ×たて」ドリルと金属、マシンガンと日本刀の項で切るための硬さと靱性の両立の難しさを書きました。日本刀におけるその実現、さらにこの「矛盾」を超える技術発展への期待を書きました。実は、この本を書いて昔からあった刃物フェチがうずき始めていたのです。この包丁は、まさに今の最先端技術といえると思います。

航空技術工学科というメーカー志向の学科を立ち上げる責任者になって、航空工場検査員国家試験の受験をカリキュラムに取り入れました。その過程で、私自身もジェットエンジンを一生懸命勉強し、あれこれ手を尽くして教育方法を確立するための模索をしました。ジェットエンジンの理論・材料・法規は何とかなるとしても、どうしても弱点は「製造修理」でした。そこで、ジェットエンジンメーカーであるIHIさんに乗り込んで、協力を要請したのです。当初、こちらの意図は理解されず、とても厳しい反応でした。ここで引いたら、ほかに頼るところはありませんでしたから、粘り強く交渉しました。厳しいやり取りの末、ある線を越えたところで、先方の担当者の方と意気投合しました。「よし、やりましょう」となったのです。以降「IHIジェットエンジン講座」を毎年開催し、学生だけでなく私自身も毎回勉強させていただきました。それだけでなくジェットエンジンの製造と修理に関する情報と教材の提供もしていただきました。

この流れの中での、この包丁「SAKON+」です。

昼食をともにしたのは、そのときの担当者の方です。先日のJAXAの松嶋氏の講演といい、今回の件といい、私の退職を気にかけてくれる方に囲まれて、幸せです。

 卒業生からのメールも届いています。ありがとう。

P.S.この包丁Amazonでも売っていました。値段を見て、仰天しました。

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おかげさまで何とか1位です

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コメント

 こんにちは。

 お仕事お疲れ様でした。私はまだ勤めて15年ですが、生活の一段落、さぞや感慨深いものでしょうと、推察しています。

 SAKON+ですが、私も興味深いと思っていた包丁です。刃先の自己再生というアイデアも面白いですが、IHIという産業機械メーカーが、家庭用品を商品化したという点に、驚きました。アイデアはあっても、それを畑違いの市場で商品化することは、相当の労力が必要だと思います。尊敬します。

投稿: マツジョン | 2012年3月10日 (土) 10時53分

マツジョン さん

コメントとトラックバックありがとうございました。

IHIがコーティング技術を他部門に応用できないかと展示会で積極的に出していたところ、そこにきていた高知県の刃物メーカーが包丁に使えるかも・・・ということでコラボが始まったようです。多分、そこから商品化にいたるまでには、紆余曲折があったものと想像します。企業がそれぞれ持っている独自技術を、企業の垣根を越えて融合させていくことは容易ではないでしょう。古い人間なので、そういうことを持ち出してしまいますが、担当者の心意気が共鳴するか・・にかかっているような気がします。
私も、定年後は技術の垣根を越える仕事が出来れば面白いなぁと、模索しているところです。

マツジョン さんのブログでの包丁に関する考察は大変勉強になります。刃こぼれ問題も、鋭い指摘だと思います。私のところに実物が手に入りましたから、何らかの実験的な確認をするのも面白いかもしれませんね。

投稿: SUBAL | 2012年3月10日 (土) 11時14分

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