« 靴底の脆性破壊 ポリウレタンの加水分解(その1) | トップページ | 自転車で見える景色 »

靴底の脆性破壊 ポリウレタンの加水分解 その2

 履き始めて5日目の革靴の底にクラックが入って剥がれおち、ついには足袋状態になりました。東京と日光へ旅行中のことです。歩きづらいことにイライラしながら、これも破壊事例の一つ、勉強にもネタにもなると頭が回るのは、自覚症状のある病気です(笑)。

Img_0561
 旅行から帰って、靴のメーカーを調べて説明を求めるメールを出しました。あまり待たせることなく回答が来ました。

++++++++++++++++++++++

 添付頂きました写真を確認致しました所、本底の破壊の原因は、加水分解と思われます。加水分解とは、湿気や風通しの悪い場所での長期保存等でカビや微生物が発生しウレタン素材を分解してしまうことです。
当商品は、平成5年~平成9年頃まで生産された商品で、生産は約15年前に終了しております。
SUBAL(原文では本名)様がご購入されましたのが3年程前という事ですので、小売店様の在庫品であったと思われます。
弊社も平成9年頃に生産を中止しておりますが、その後、加水分解を起こさない素材が開発され、現在はその素材に切り替えております。
当時の当商品には、エステル系ウレタン素材の本底を使用しておりました。
ウレタン底の特徴としまして、軽くて摩耗に強い事ですが、湿気、保存状況等により加水分解を起こす可能性があります。雨や水に濡れたままでの保管や、湿気の籠りやすい下駄箱等での長期保存等が加水分解を引き起こす原因と考えられております。

++++++++++++++++++++++

原因としては、エステル系ウレタン素材の加水分解が原因とのことです。暗に「保管状態が悪かったんだろう」という言い方です。冗談じゃぁない!!3年前に購入したものですが、未使用で保管していたもので、この靴にも下駄箱の中のほかのものにもカビなんか生えていません。

にほんブログ村 科学ブログ 技術・工学へ
ポチッとクリックで応援

 調べたところ、ポリウレタン樹脂(PUR:Polyurethane)にはエステルタイプとエーテルタイプがあり、エステルタイプは加水分解を起こすようです。エステル結合の部分と水が反応して、アルコールと酸に分解されてしまいます。もともと高分子材料は長く結合した分子が絡み合うことで強度を保っているわけで、この分子の鎖が途中でブツブツと切られれば、著しく弱くなるのは、当然といえば当然かもしれません。

 水に触れれば時間の問題で劣化してしまう材料ということです。エエエ!そんな材料を靴底に使うの?雨の日は履いてはいけない靴だった?そんなの靴じゃぁないでしょう!!

 でも、この事例結構あったようです。昨日の記事にいただいたコメントによれば「ミドリ安全の安全靴でもあった」とのことです。ミドリ安全といえば、安全靴ではトップメーカーですよね。現場で突然靴底がはがれる靴なんて、安全靴ではなく事故誘発靴だろう!といいたいですね。

 ああそう言えば、と思い出して「破壊事故 失敗知識の活用」(共立出版)をひっくり返したら載っていました。4ページにわたって、ポリウレタン素材のスキー靴の破壊についてです。

「プラスチック製スキー靴の破壊(1993年)」

1987年から1993年にかけてスキー中に突然スキー靴が破壊してけがをしたという事例が国民生活センターに寄せられて、調査の後1994年に注意を呼びかけたのだそうです。この記事の後には著者の友人の体験談として、1995年苗場でレンタルスキーを借りてブーツが突然破壊したことがあったと記されています。国民生活センターに寄せられた件だけでなく、結構頻繁に起きていたようです。(この項はこの本を私に寄贈してくださったM先生が書かれたものでした)

この項の最後はこう締めくくられています。

「プラスチックは水と薬品に強いという社会一般の誤った常識(材料の安全神話)がある。プラスチックは吸水劣化する。材料の特性に絶対の安全神話はなく、安全神話が事故の原因となる」

私の靴の話に戻すと、メーカーの話ではエステル系ウレタン素材を使った製品を作っていたのは平成5年~平成9年頃までで、現在は加水分解しない材料を使っているとのことです。国民生活センターが注意を呼びかけたのが1994年(平成6年)です。保管状態云々というより、空気中の水分によって時間の経過とともに加水分解したものと推測できます。

それが2009年ごろに店頭で売られていたんですからね。消費者にとっては靴は買った時が新品ですよ。靴を買う時に製造年月日と賞味期限ではなく使用期限があるなんて思いません。チャップリンの映画じゃぁあるまいし、靴は食料品ではありません。使用期限があるものだとしたら、その旨も製造年月日も表示せずに販売するなんて納得できません\(*`∧´)/。

注意して使うというよりは、エステル系ウレタン素材の靴は買わないという選択が正しいでしょう。

にほんブログ村 科学ブログ 技術・工学へ
技術工学ランキング、応援よろしく

|

« 靴底の脆性破壊 ポリウレタンの加水分解(その1) | トップページ | 自転車で見える景色 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

科学技術」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。
先日オークションで新品のゴルフバッグを格安で落札したのですが、材質はPUです。エステル系かどうか分かりませんが、雨の日のゴルフがコワくなってしまいました…。
という短絡思考もダメですよね。

投稿: niwatadumi | 2012年6月19日 (火) 21時00分

こんばんは。
 靴底の破壊、私も以前に経験したことがあります。2000年頃でしょうか、数年ぶりに履いた靴で、発生しました。結婚式への出席だったので、恥ずかしい思いをしました。
 「実際の設計(第4巻)」という本に、この話が載っていて、なるほど、と感じた記憶があります。同書によると、使っていない靴のほうが、使っている靴よりも破壊が生じやすいと指摘しています。(使っている靴は、歩くときの圧力で、ポンプのように水分が外に出されるらしい、との推察。)
 プラスチック系の材料は、仕事でも扱いますが、油を吸って伸びる、乾燥すれば縮む、季節によってソリ具合が違う、と、まさに生き物です。ときに、魔物のようにも感じます。

投稿: マツジョン | 2012年6月19日 (火) 22時11分

niwatadumi さん こんばんは

ポリウレタンでも、エステル系なのかエーテル系なのかなんて多分表示していないですよね。ゴルフショップでも靴屋でも「これはエステル系?エーテル系?どっち?」なんて聞いたら救急車か警察を呼ばれてしまうかのしれません(笑)。
水に濡れたら劣化する材料を屋外で使うものに使用すること自体が間違っているという、ごく当たり前のことを主張しなければならないのがいかにも悲しいです。

投稿: SUBAL | 2012年6月19日 (火) 23時13分

マツジョンさん こんばんは

改まった席に普段はかない靴を履いて行って、恥ずかしい思いをした・・・・今回の私と同じパターンですね。

>使っている靴よりも破壊が生じやすいと指摘しています。

そうなんですか。

>使っている靴は、歩くときの圧力で、ポンプのように水分が外に出されるらしい、との推察。

これはどうですかね。多孔質で水分が入り込んでいる。圧縮されることで出る、ということですね。畑村グループの人たちの中には調べないでいい加減なことを言っている場合がありますので、私は疑問符をつけておきます。

プラスチックはよくわかんないですね。定性的な説明があっても、現象が起きにくい場合があります。アクリルのクレージングクラックの再現を行って教材にしようと思ったら出ませんでした。飛行機の窓でも最近はクレージングクラックはほとんど見なくなりました。○○防止剤なんてのがあったりするようです。

投稿: SUBAL | 2012年6月19日 (火) 23時25分

靴って・・消耗品ですよね、しまっておくと内部が痛むと思うのです、表面はきれいでも見えない内部がスカスカになっていると思います。私も2年寝かした生地素材の靴を触っていたらボロボロと生地が出てきました。よくよく調べると除湿剤がいけなかったらしいです。やはり、せっかく購入したのだからこそ、使ってあげよう思いました。

投稿: トンビ | 2013年7月 8日 (月) 10時26分

トンビさん

確かに靴に限らず、ものは使ってあげるという愛情は必要かもしれませんね。
でも、例えば私のように作業着を着ての仕事がメインの場合、革靴はめったに履きませんが、やはり革靴を持たないわけにはいかないんですよね。休日に遊びに行くときに革靴というわけにもいきませんし。
靴に加水分解する高分子材料を使うということが間違っていると思いますけどね。

投稿: SUBAL | 2013年7月 9日 (火) 07時06分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/222291/54982741

この記事へのトラックバック一覧です: 靴底の脆性破壊 ポリウレタンの加水分解 その2:

« 靴底の脆性破壊 ポリウレタンの加水分解(その1) | トップページ | 自転車で見える景色 »