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著作権についての学習ノート その2 「全著作権の譲渡」

 あなたがある技術専門誌から解説原稿の執筆を依頼されたと想像してください。依頼された内容、依頼してきた出版社については特段問題はなく、執筆することに関しては前向きに検討したいと考えているとします。ある日、執筆依頼状が届きます。その著作権に関する記述が以下の様だとして、あなたはどのように考えますか?

A社の記述

「ご執筆いただいた原稿の著作権は執筆者本人に帰属しますが、原稿が掲載される雑誌についての出版権は当社が有します。」

B社の記述

「本誌に掲載される原稿の著作権は、すべて当社に帰属する。原稿を投稿する者は、著作権のすべてを当社に譲渡する旨の文書を投稿時に当社編集部あてに提出する。ただし、原稿の翻訳など二次著作物の作成に関する権利は著者に留保する」

 この文章は具体的な事例を参考にして、問題点を浮き彫りにするように私が作りました。著作権についての例題として考えてみてください。

 A社とB社、受け取る原稿の著作権についての扱いはずいぶん違う、180度違うように見えます。

  ところが、著作権法に照らしてこの文章を検討してみると、受け渡された原稿の権利関係はA社のケースもB社のケースも変わらないのです。

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 えっ!と驚かれるかもしれませんが、公益社団法人著作権情報センターのHPを見てみましょう。

 著作権には、「著作者人格権」と「著作権(財産権)」があります。前者の「著作者人格権」はもともと譲渡できないものとして法律で定められています。たとえ「著作権のすべてを当社に譲渡する旨の文書」を提出したとしても、「著作者人格権」は譲渡されないのです。

 著作者人格権には公表権・指名表示権とともに同一性保持権があります。同一性保持権とは、「自分の著作物の内容又は題号を自分の意に反して勝手に改変されない権利」です。受け取った原稿のタイトルと内容を出版社は著者に無断で変更する権利はなく、この権利は譲渡できないのです。

 著作権(財産権)についても、いくつか細かい規定があります。そのうち文章にかかわるところでは複製権・頒布権・譲渡権・貸与権があります。これらはいずれも複製物を作り頒布し販売する権利ですから、一口に言って出版権と言ってよいでしょう。

 翻訳権・翻案権については、「全著作権の譲渡」を文章で交わしていても、特段それについての記載がない限り、譲渡されていないとみなすというのが現在の法律のようです(著作権法61条2項)。B社の文章も、この権利は執筆者にあると書いてあります。

 こうして見ていくと、A社の記述とB社の記述で著作権の項目について権利が著者側・出版社側のどちらにあるか、という点では変わりはないことが分かります。A社の文章もB社の文章も、実質的に出版権の譲渡を意味しているのです。逆に言えばそれしか意味していない。

 では、何が違うのでしょう。ズバリ「印象」ですよね。

 「ご執筆いただいた」(A社)と「原稿を投稿する者」(B社)という言葉に象徴される執筆者に対する向き合う姿勢が違う。少なくとも受け取る側の印象はずいぶん違います。

 「たとえ何があっても法と社会規範に従って適切に対処する」というプロとしての自信と執筆者に対するリスペクトがA社の文章からは伺えます。他方強い口調のB社の方は…。まぁ…多くを語らないことにしましょう。

 出版社というものは、著作権を商売・事業の種にしている仕事だと思うのです。板前さんが包丁の扱いにおどおどしているのはみっともない。堂々と鮮やかな包丁さばきのプロがいるところで料理は食べたいです。

 レストランでゴネたことは生涯ありませんが、「食べた後に何があっても一切文句は言いません」という一文に署名を求められるレストランがあったとしたら、そんな文章は法的には意味がないことは承知していても、なんだかそこでは食事はしたくないですね(笑)。

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