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『長さ1kmの金属棒を1cm押したら、その反対側は何秒後に1cm動くのか?』

 ブログの読者の方からちょっと前のブログ記事コメント欄に質問をいただきました。その記事の内容とは離れていましたが、面白かったので、別記事にしました。これを詳しく書いていくと、いくつかのことを説明しなければならず長くなりそうですが、考えていくヒントになればということで、短い私なりの回答を書いてみました。

Kennyさんからのコメントです。

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金属ことを調べていてこちらにたどり着きました。

そもそもの疑問は

「理想的な状態・空間にある長さ1kmの金属棒を1cm押したら、その反対側は何秒後に1cm動くのか」

ということを調べていました。

  もちろん1cm動かすのにもある程度時間はかかるでしょうし、色々条件はあると思うのですが、基本的に『力は音速で伝わる』、だから反対端の移動も音速で決められる、と考えてよいのでしょうか。

  波の伝わりと物質の移動を混同していての混乱だとは思うのですが、どこで躓いているのかが分かっていない状況です。

  ヒントを頂ければ嬉しいと思い、書き込みさせていただきました。

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私なりの回答は続きで…。

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 疑問のありかがいまいちつかめませんが、「1kmの長さの金属棒を動かすのに何故音速以上で移動させられないのか」ということでよろしいでしょうか?

 もしそこが疑問だとすると、運動を変化させるために物体に力を加えたときに物体は変形する、ということがお分かりになっていないのではと推察します。

 いくつかの前提が必要なのですが、金属棒は止まっている(速度0m/s)と考えます。

 金属の棒を10cm(0.1m)角の鉄棒と考えましょう。密度7800kg/m^3、縦波音速5900m/sとします。全体の質量は78000kg(78トン)になります。

 この棒は力をくわえても変形しないと考えて、運動の変化だけを考えることにします(ありえないのですが)。1cmを音速(5900m/s)で動かせたとすると、1秒間に棒は5900m移動することになります。5900m/s^2の加速度です。その力(加速度×質量)は460×10^6N(460MN)というとてつもなく大きな力です。

 この力を実際に端部に加えたら、鉄の棒の端部は壊れてしまいます。鉄の棒には加えられた力と反対向きの慣性力が生じます。棒の端部は圧縮変形します。単純な応力計算(=力/断面積)では応力は46GPaとなり、鉄の強度をはるかに超えるのです。

 もう少し簡単に言うと、野球のバットでボールを打つとき、ボールの運動は変化しますが、打った瞬間ボールもバットも変形します(こちらの動画)。変形というかたちで力は伝わるのです。力が大きくなるとボールが飛ぶスピードも速くなりますが、変形も大きくなります。変形が限度を超えると壊れるのです。

 通常は壊れない程度の力を加えて運動を変化させます。速度の変化は、加えられた力に応じで生じることになります。

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科学技術」カテゴリの記事

コメント

SUBALさん

質問された方もSUBALさんも鉄の棒をでかいハンマーで叩くモデルでお考えのようですが、力の加え方に条件はありません。私は熱力学で登場する準静過程を思い出して、無限小の力を加えれば鉄の棒が変形することは避けらると考えました。
この場合、1cm動かすには無限大の時間を要します。私ってへそ曲がりでしょうか?

投稿: 271828 | 2013年8月19日 (月) 10時19分

271828 さん

はい、このコメントは相当にへそ曲がりだと思います。

「変形をしない無限小の力で無限大の時間で動く」ということはロジックとしてはありえても所詮ロジックの世界。現実世界に生きている野暮天にとっては、このロジックの現実的意味は、力はゼロ、移動量もゼロということです。

 あえていえば、身の回りで見渡せるスケールでは、速度ゼロから1秒後に音速に達せさせる力に比べると、ほとんどの場合無限小ともいえる小さな力でものは移動している、そのため変形量も無視できるほど小さい、ということでしょう。

 日常ではありえない爆発的な力を加えられたときに、ものは移動ではなく破壊になるのです。

 だからなのか、普通教育で力と運動を取り扱うときに、力と変形は無視されている。ものが壊れるということについて、普通教育では教えない。私は、普通教育の中で力と変形についてちゃんと教えるべきだ、というのが持論です。

投稿: SUBAL | 2013年8月19日 (月) 11時44分

SUBAL様、わざわざ新記事を立ててまでのご回答、誠にありがとうございます。
記事を拝読させていただいて、自分の思考モデルの霧が少し晴れたような気がしています。
まず、工学的な限界で制限が生まれるというのは至極ごもっともで、思考のモデリングがそもそも間違っていたら、当然正しい思考は得られませんね。
その点を踏まえて、自分が何を理解しようとしているのか、再度モデルにしてみました。

「長さ1mの金属棒を0時0分0秒に押し始めて、1cm押したところで押すのを止めた場合、反対端は何時何分何秒に動き始めるか」

という疑問が正しく表現できているように思います。
ご教示いただいた内容を当てはめれば、押し手側は0時0分0秒に力を受けて変形し、その変形が反対端に伝わり、伝わり終えた時点で「動き出した」と観測される。
したがって、金属棒に生じた変形が伝わる速度で決定される、という結論になるのでしょうか。

投稿: Kenny | 2013年8月20日 (火) 01時35分

Kenny さん

>したがって、金属棒に生じた変形が伝わる速度で決定される、という結論になるのでしょうか。

そうです。端部を押して生じた変形は弾性波として伝わります。つまり縦波音速で伝わります。

投稿: SUBAL | 2013年8月20日 (火) 04時22分

最初の質問で条件が不足しているので回答を作りづらいのではと私は想像しています。
私は次のように考えます。
まず、「長さ1mの金属棒A(考えやすいように鋼とします)」と「同じ材質・断面で長さ1mの金属棒B」があるとします。
金属棒Aは速度v(m/sec)で静止している金属棒Bに衝突したとします。(この場合2つの棒は一直線に並んでいて、衝突はそれぞれの棒の端面同士が正面衝突します。)
そうすると、衝突した瞬間に衝突面から弾性波(超音波としても、応力波としてもよい)がそれぞれの金属棒に衝突した面と反対方向の面に向かって進行します。金属棒Bでは反対側の端面に1/5900秒後に到達して非常にわずかにひずみが生じますが1cmから比べると弾性波による変位は非常に小さいので無視できます。
次に金属棒Bの端面で弾性波が反射して衝突面の方に進行します。(同様なことは金属棒Aでも発生します。)
この、金属棒B内の反射した弾性波が衝突面まで到達すると金属棒Bは速度v(m/sec)で金属棒Aから離れます。このとき、同時に速度v(m/sec)だった金属棒Aは静止します。
つまり、金属棒Bが1cm動く時間は2/5900+(1×10^-2)/v(秒)となり、極端に大きな速度の衝突でない限り、金属棒Bの衝突面と反対面の長さ1mは変りませんから、金属棒Bの衝突面の反対側の面が1cm動くための時間は2/5900+(1×10^-2)/v(秒)となります。
このことが実感できる身近な例は、金属球(パチンコ玉では小さいと思いますのでその数倍程度の玉)に糸を付けた振り子を2つ用意して、重力で静止した状態で2個がちょうど衝突するようにして、片側の振り子を持ち上げてスタートさせ衝突させることだと思います。
ただ、このことを1kmの長さまで拡張すると、衝突する速度を非常に小さくしないとそのような結果にならないと思います。
さらに、違うもの(質量が違うもの、硬さが違うもの)で押した場合はもっと複雑になるので簡単に他端が1cm動くのは何秒後と計算できないと思います。
高速度カメラで実際に現象を見てみたいです。
実際に、1m、10m、100m、1km(100mあたりから実験は困難でしょうが)の端部をたたいたり、押したり、一定の速度で衝突させたり、実験してみたいですね。


投稿: ikegaya | 2013年8月20日 (火) 15時50分

SUBAL さん
 毎度、興味深く拝読しております。

 たいへん面白い題材で、あれこれと楽しく考えさせて頂きました。ありがとうございます。私の考えたモデルは、次の2種類です。

1)棒の一端を固定して、他端をゆっくりと1cm押し込む。押し込んだら、今度は押し込んだ側を固定して、固定していた側を一気に離す。そうすると、押し込んだ一端の変形が、他端まで伝わっていく(これが、音速ということでしょうか?)。エネルギ損失を無視すると、他端は1cmでなく、2cmくらい移動するかもしれないような気もします。

2)棒の一端をゆっくり(無限小の力で、無限大の時間をかけて)押す。この場合、無限時間後に一端が1cm動いたときには、他端もすでに1cm動いているのでしょう。(これは271828さんと同じモデルです。)

 実際の条件(一端自由で他端をある程度の力で押す)では、1と2の中間になるのでしょうか。確信がもてません。
 最初に思いついたのは2のモデルです。押し込み方で挙動が変わるとは、最初思いつきませんでした。頭が剛体力学で固まっているようです。手元のコイルばねを押したり引いたりして、ようやくイメージが沸いてきました。勉強になりました。

 以上、楽しく想像しましたが、いずれも空想の世界です。「破損」については、ちっとも考えていませんでした。なるほど、機械の設計では、変形(たわみ)はしばしば無視しますが、強度は絶対に忘れてはなりません。うっかりしておりました。

投稿: マツジョン | 2013年8月20日 (火) 18時57分

ikegayaさん マツジョンさん

コメントありがとうございました。
実験するとしたら、宇宙空間に鉄かアルミの1km長の棒を浮かべて途中にひずみゲージでも貼って端部に力を加えるしかないでしょうね。

私たちが生きている間に実現できる実験ではなさそうです。思考実験で楽しむしかないでしょう。

私も楽しんでいます。

投稿: SUBAL | 2013年8月21日 (水) 07時07分

ikegaya様、マツジョン様、SUBAL様、重ね重ねありがとうございます。

ikegaya様>
振り子を使った金属球の衝突実験は、どこかで見た記憶があります。あれは内部でそういう現象が起きているのですね。

マツジョン様>
実は事の発端は正しくそのバネでして、「路面からの入力を受けたバネは、何秒後にその入力をボディに伝えるか」ということを考えていました。
単純に時間の遅れというだけではなく、入力が伝わるその途中経過を把握したいというのが本来なのですが。

SUBAL様>
私もない頭で宇宙空間を妄想しています。
鉄とアルミでは、入力可能な力の大きさがかなり違ってきそうですね。

投稿: Kenny | 2013年8月21日 (水) 20時14分

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