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週刊日本刀への疑問 特殊撮影とは何をやっているのか?

 週刊日本刀の最大のウリである等身大の刃文をコントラスト高く写した特殊撮影と銘打った写真、4号までの写真を見て何をやっているかおおよそ想像がつきました。前の記事で説明した匂(におい)を強調した撮影法です。匂は冶金学的にはセメンタイトとフェライトで構成されるパーライトであり、砥石による研磨によって刃や地金に比べて微細な凹凸ができることが私たちの研究の結果明らかになっています。この表面の微妙な滑らかさの違いが光の反射の違いを生み出し、刃文として人間の目に見えてきます。

 刃文を鑑賞するには独特の方法が取られます。その方法は週刊日本刀の創刊号でも解説されています。

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  この鑑賞方法で沸と匂がどのように見えるかを解説しましょう。まず表面に滑らかなところと粗いところが混在していると、照明光と視線の方向の違いで明暗が反転します。

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 視線が面に対して直交する場合、照明が斜めのであれば、表面が粗いほうが明るく見えます。逆に照明光も視線と同じ(同軸落射照明といいます)であれば、滑らかな方が明るく見えます。これは刀の刃文を写真撮影したり顕微鏡で観察したりするとわかることです。

 上の刀の鑑賞法は、表面の粗さによって異なる正反射と散乱反射の違いによる明暗の変化を正反射の入射角を変化させてみているのです。

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 縮尺としては誇張した図ですが、刀剣の鑑賞法の図に刃文部の凹凸データを挿入してみました。沸のマルテンサイト粒の滑らかな面で正反射した反射光の延長上に目が来たときに沸はキラリと輝いて見えます。それ以外の状況では匂の表面が粗い箇所が散乱光で淡く白っぽく浮き出て見えるのです。

 線を面に直交する方向にして斜めから指向性の高い光を当てれば、面の粗い部分が散乱光によって明るく浮き出てきます。刃文部を浮き立たせる写真は刀身全体を一発で撮影することはできません。ですから撮影して刃文が浮き立つ部分を切り取って画像処理で合成する作業が必要です。この現象は、化粧研ぎに限らず他の仕上げ研ぎである差し込み研ぎや白研ぎでも、下地研ぎの最終段階である内曇り研ぎでも同じことが起きます。

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 特殊な観察方法や特殊な照明と画像処理をしなければ刃文が見えにくいのは、砥石によってできる刀身表面の凹凸の差異が極わずかだからです。

 このような撮影方法で国指定品の文化財を含む日本刀の写真が撮影されて発刊されることは貴重なことでコレクションに値すると思います。刃文と研ぎの関係を真正面から取り上げるとわかったら全巻予約するんだけどな・・・。

 この匂い部分のコントラストが高い状態を「作刀された当時のイメージに近い」と紹介するのはやめてほしいです。砥石で研いでいる以上、このようなハイコントラストの刃文はどの時代でもどの工程でも現れないのです。このような紹介している方は、刃文のことも研ぎのことも存知ないのだろうと想像せざるを得ません。日本刀の取り扱いのイロハも知らないかたのようですし…。

 実は最近博物館に行くと、このような特殊撮影をしなくてもハイコントラストな刃文の普通に見ることができる日本刀が展示されているケースが多くなっています。これは観察方法や撮影方法ではなく、ある特殊な処理を刀に施しているものです。この件に関しては稿を改めます。

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