つまようじブリッジコンテスト<主旨・ルール・経過>(2001年)

 私が勤務する日本航空専門学校では、毎年10月の末に、技能コンテストを実施している。学園祭に変わる専門学校らしいイベントを、という主旨で始めた。私の所属する学科では、爪楊枝(つまようじ)を使ったブリッジコンテストを実施している。平成9年から始めて、過去4回実施した。
 軽くて強いものを作ることは、航空宇宙機器の設計製造に通ずるものがある。また、「壊してこそわかる強さ」ということがある。計算で破壊荷重を求めたり、材料のレベルで強度を測定したりすることはするが、構造物を実際に破壊することはなかなかできない。安価な材料で、自由な発想で製作した構造物を、実際に壊してみる、ブリッジコンテストには通常の授業では得られない何かがあるように思われた。
 企画をするにあたって、スタッフで申し合わせたのは、次の2つだった。レギュレーションは可能な限りシンプルにする。生まれ出る発想の量は、競技規定の多さに反比例する、と考えた。発想に方向性を与えるだけの規定にすることにした。材料は可能な限り安いものにする。惜しげもなく使い、そして壊すことが重要と考えた。そうしてできた規定が次のようなものだった。

規定

  1. 爪楊枝と木工用ボンド使って500mmのスパンに架ける橋を作る
  2. 完成重量を100グラム以内とする
  3. 中央部に荷重をかけ、10秒間耐えたらクリヤーとし、走り高跳び方式で荷重を増加していく

競技台と荷重

 最初の年は、机を2つ並べて500mmのスパンを作り、荷重は容量20リッターのポリ容器に水を入れて吊り下げた。せいぜい10数キロだろうと思っていたが、17.5kgfで優勝するチームが現れて、仕掛けが持たないことがわかった。次の年にはスチール製の競技台を作り、スチールバケツに鋼板の錘を入れた。2年目の優勝チームの耐荷重は、35.5kgfであった。このとき錘は35.5kgfまでしかなく、これに耐えた3つの橋が優勝した。3年目には、47.5kgfのチームが優勝した。これぐらいになると、バケツを2人で持ってもやっと、そのうちけが人が出ると誰しも思うようになった。そこで4年目には、廃棄する筋力トレーニングマシンのウエイトを譲り受け、足ふみ式リフターと組み合わせて、載荷装置を作った。4年目の優勝耐荷重は、60kgfであった。

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図1. 耐荷重の推移

学生の工夫

 年々耐荷重が伸びているのは、学生達の工夫と切磋琢磨の結果である。仕掛け人としては、4年でここまで来るとは思っていなかった。うれしい誤算である。
 最初は「つまようじで橋ですか~?」と消極的だった学生達も、作り始めると次第に熱中し始め、夜中も寮のなかで徹夜で作るものも出てきた。

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写真1. 荷重をかける直前の橋

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写真2. 破壊の瞬間、弱いところから壊れる

 「勝つ」ために、強い形の情報を集め始め、製造方法の工夫を始める。爪楊枝の両端はつかえないので、切断をする。その後接着をして棒状にしていくが、切断面を90度にするか45度にするか、切断面を均一にする方法など、あちらこちらで工夫が始まる。
 木工ボンドを楊枝に浸透させて「強化木材」を作り始めるものもいた。木工ボンドは適当な粘性を持たせてあり、そのままではほとんど浸透していかない。しかし、水溶性であるので、水で薄めれば浸透するようになる。浸透するぎりぎりの濃度を探して、浸透させていた。しかし、この橋は当日まで乾燥が間に合わず、フニャリと曲がってあっけなく壊れた。次の年には、乾燥時間を考慮して工程管理をするものが現れた。このチームは優勝した。

 ネガティブな「工夫」をするものもいる。2回目のときに、爪楊枝で「丸太」を作って挑戦するものがいた。「これが優勝したら、このコンテストは終わりですね」とうそぶいた。規定には違反していない。みんながひたすら丸太を作るコンテスト、考えただけでも薄ら寒い光景である。これが意外に強かった。しかし、最終的にはトラスのほうが強く、丸太が上位入賞をすることはなかった。もっとスパンが短ければ危なかったかもしれない。しかし、このような「反逆」も許される雰囲気が大切だと考えた。材料が爪楊枝で500mmのスパンに架ける橋の最適形状が、仮に「丸太」だとしたら、それより弱い橋のコンテストをしても意味がないように思う。

 この他にも、われわれが掌握しているだけでも、数々の工夫が生み出された。自ら進んで情報を集める、試行錯誤で工夫をする、そして橋が荷重に耐えた瞬間に生まれる耐える橋への愛おしさ、壊れた瞬間での悔しさと「あそこか!」という思い。知的な興奮がそこにはある。

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写真3. 60kgfに耐えた瞬間

今後へ

 学校を訪れる設計や構造の専門家にこの橋を見ていただくと、ほとんどの方が「どのような計算をしているのですか」と尋ねられる。計算はしていない。勘と試行錯誤の世界である。仮に計算ができたとしても、現実の「強さ」と計算には大きなギャップがあるだろうと想像している。事前に計算をして製作をしたとすれば、このコンテストでの収穫は、実際の「強さ」は構造計算だけでは行かない要素があることの確認になるのだと思う。
 実際、最初に壊れるのはほとんどトラスの接合部である。実際の構造物では溶接部であろう。材料の品質管理、加工工程の工夫と管理、丁寧に作る、手抜きをしない、それらの前提の上に「かたち」の強さがあるのだろう。 
 しかし、ここまで来るともっと教育として高度なものにしたいとの欲が出てくる。いわば種を作る事前の授業、そしてこのイベントをいわば畑起こしとして、その後出てくる芽を育てる、と考えたい。確かに「芽」は出てきている。しかし、あたり一面にすくすくと、というわけには行かない。そんなことを考えているときに、長岡高専の塩野計司先生の「段ボールの橋」の実践を知った。大変興味深いコンテストである。長岡高専を始めとして全国で行われているブリッジコンテストに学びながら、コンテストのルールを考え始めた学生達とともに模索を開始している。(2001年6月)

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