「おもしろサイエンス 破壊の科学」

目次

第1章 力と破壊 

1.破壊力  ものを壊す力って何者?

2.弾性    ばねの性質と反力

3.破断の二つのパターン 分離破断とせん断破断

4.破壊=分離   どうして粉々にならないの?

5.原子の構造と強度  その理想と現実

6.ダ・ヴィンチの壊してみる実験   応力と強度

7.引張ると曲げるの違い   曲げて壊すほうが簡単

8.応力集中   小さなきずと破壊のはじまり

第2章 ガラスの壊れ方

9.ガラスとは何か?  ガラスは液体それとも固体?

10.ガラスはなぜ割れやすい  力は弱いところを衝く

11.グリフィスき裂   ガラスの破壊メカニズム

12.グリフィスの破壊理論  エネルギーの収支バランスから破壊を考える

13.ガラスを強くする方法  強化ガラスの作り方

14.強化ガラスの壊れ方  外見は普通のガラスだけれど

15.合わせガラスの壊れ方  防犯ガラスとして使われる理由

16.熱によって割れるガラス  熱による力と衝撃

第3章 金属は柔らかいから割れない!?

17.金属とは何か?  金属って本当は柔らかい?

18.鋼を引張って切る  引張って壊してわかること

19.塑性変形とせん断破壊  斜め45度の秘密

20.金属の格子欠陥と転位のすべり  加工硬化は金属の特徴

21.金属組織と硬さ   強さとタフさは両立できない?

22.熱処理   金属の性質を変える

23.金属とき裂  グリフィス理論の修正

24.矛盾の逸話  穴のあかない金属と何でも穴あけするドリルの対決

25.日本刀対マシンガンの対決 日本刀にマシンガンの弾を撃ち込んだら

第4章 さまざまな破壊とそれを防止する取組み

26.低温脆性  タイタニックの悲劇

27.疲労破壊  金属も疲れるのだ

28.疲労き裂の進展  き裂は知らぬ間にじわじわと進む

29.圧縮力による破壊  宇宙の太陽電池パネルに応用される座屈パターン

30.腐食による破壊  金属の宿命か

31.複合材の破壊  より壊れにくい新素材の開発

32.破壊の音を聴く  破壊時に材料が出すうめきや悲鳴

はじめに

2011年3月11日東日本を襲った大地震とその後の大津波は、「ものはいつか壊れる」という誰もが知っていながら普段は忘れている真実を、深い悲しみを伴って思い起こさせられました。世界一といわれた防波堤も巨大津波の力にはなす術もなく破壊されました。集落が津波に襲われ丸ごと破壊される光景は、言葉を失うほどに衝撃的でした。世界各地で起きた地震では、建物が倒壊して大勢の人が生き埋めになり、壊れ方によって犠牲が多くなることも知りました。

 かたちあるものはいつか壊れます。ものには外からの力に耐えうる限度があって、限度を超えた力が加えられると破壊します。ものを作るときには、設計段階でそれにかかるであろう力を想定してその力に耐えるように材料と形を決めます。当然、想定を超えた力が加えられた場合にはものは壊れます。絶対に壊れないものを作るのは不可能だとしたら、想定外のことが起きることを前提として、その場合でも被害を最小限にする知恵を持たなければなりません。

 文明が発展し、人類が大きなエネルギーを利用して便利な生活ができるようになることに伴って、その影のように悲惨な事故が発生してきました。ものはどうして壊れるのか、壊れないようにするにはどうしたらよいのか、安全な壊れ方はあるのか・・・人類の知的な探求がこの分野に向かうのは当然といえるでしょう。 私たちは、時速数百キロで移動することを何の恐れもなく行ない、地上数十メートル数百メートルの建造物にも安心して入り、夏も涼しく冬も暖かくすごすことに違和感なく生活しています。当たり前ですが、背後では考え抜かれた構造物が大きな力に耐えて私たちを守ってくれています。私たちの安心安全は、破壊に関する科学の進歩と安全確保にかかわる技術者のたゆまぬ努力によって保たれているのです。破壊は実に様々な要因が絡み合う複雑な現象です。残念ながら、人類はまだその全てを知りコントロールできる段階にはいたっていません。逆に言えば、研究と改良の余地がたくさんある分野だということができます。

 本書ではあまり知られていない破壊の科学を、脆性破壊と延性破壊をキーワードにして読み解いていきます。脆性破壊をする典型的な材料としてガラスを、延性破壊をする典型的な材料として金属を取り上げて、その破壊のしくみを解説します。ガラスも金属もより良い機能を求めて様々な工夫がされています。新たな機能が実現することに伴って、壊れ方も変化しています。壊れ方の観点から見ると、ガラスと金属の進歩の過程で共通点が見えてきます。

 破壊の裏面はものづくりであり、破壊の先にあるのは創造です。破壊から悲劇の影が消える日を筆者は夢見ています。そんな思いを込めて本書を執筆しました。

                             谷村康行